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地域と人が生み出す新しい可能性 XSCHOOL第二期福井発表会レポート
約120日間にわたってプログラムを進めてきたXSCHOOL第二期は、いよいよ福井発表会の日を迎えました。一足早く開催された東京発表会では、レビュアーや来場者のみなさんからフィードバックをいただき、最終発表会に向けて各チームの大きな力になったようです。21名のメンバーが新しい一歩を踏み出した一日をご覧ください。
2018年2月3日(土)、会場のハピリンホールでは、朝から受講生たちが準備を進めていました。東京発表会から約2週間。この間もさらにプロジェクトの内容をブラッシュアップし、発表の内容や伝え方も工夫を重ねてきました。
開場の時間になると、多くの来場者が続々と受付にやってきました。昨年の発表会にも参加してくださった方や県外からはるばる足を運んでくださった方も多く、XSCHOOLへの関心の高さを感じます。
▲各チームのプロジェクトの内容が展示されているブースでは、開場直後から多くの人だかりができていました。
満席の会場が熱気に包まれるなか、発表会がスタート! まずは福井市未来づくり推進局の上道悟局長からご挨拶をいただきました。
「このプロジェクトは都市圏から福井へ新しい人の流れをつくり出すことを目的に誕生しました。都市圏のクリエイティブな方たちとパートナー企業が培ってきた技術や伝統を掛け合わせると、どのような新しいものが生まれるのか。大変期待しています」
さぁ、いよいよ7チームのプレゼンテーションがはじまります。
ここからはXSCHOOL二期生のプロジェクトをご紹介していきます。
“ものづくりの魅力”を落語で体感する新しい座「ものらく座」
会社員の今飯田佳代子さん、地域おこし協力隊の横山絵里さん、デザイナーの安井利彰さんが考えたのは、“落語”を通してものづくりの裏側にあるつくり手の技や熱量を伝えるプロジェクト。
▲福井市内でひと足先に開催したプレイベントは満員御礼! 落語家の桂優々さんの噺に参加者はぐいぐい引き込まれていました。
今後開催予定の本イベントに向けて、創作落語やものづくりの背景がわかる商品の開発を進める「ものらく座」チーム。産地のつくり手と落語とのコラボレーションを通して、もの・産地への愛着をゆるやかに生み出します。
▲ロゴデザインはXSCHOOL一期生の室谷かおりさん(右から2人目)が担当しました
子育て中のおかあさんとつくる、小さな和菓子「ころりん」
会社員の片淵未帆さん、小野寺正人さん、主婦の早川祐美さんが考えたのは、子育て中のおかあさんの社会への第一歩を後押しする新しい協働の場。
▲一児の母である早川さん(右)の実体験にもとづくアイデアでした
三世帯同居率が高く、待機児童率0%と子育て環境が豊かだと言われている福井市。しかし、子育て中のおかあさんが不安を抱えていないわけではありません。そんな気持ちに寄り添うため、子どもも安心して食べられる和菓子「ころりん」づくりを通しておかあさんが働く場をつくります。
▲プレゼン内では「ころりん」の試食も
ゆくゆくは下校後の子どもたちが気軽に遊びに来れる「ころりんはうす」として発展させていく構想も発表しました。
小さなコミュニティをつなぐ“リレー本棚”「ほんのちょっと」
編集者の松本一希さん、デザイナーの中井詩乃さん、会社員の青山海里さんが考えたのは、遠く離れた親しい仲間同士で育む本棚プロジェクト。
空っぽの「本棚」にそれぞれが共有したい本を納め、リレーのようにぐるぐると送りまわすことで、各地に暮らす仲間たちの近況や興味関心が詰まった本棚が誕生します。
▲ロゴデザインはXSCHOOL一期生の吉鶴かのこさん(左)によるもの
これまで知らなかったお互いのことを「ほんのちょっと」知るきっかけになるかもしれません。
美味しい対話を通して、二人の味を見つける「めおとみそ」
会社員の津田康平さん、ゲストハウススタッフの土田佳奈さん、コピーライターの古澤敦貴さんが考えたのは、地域によって味の違いが大きい「味噌」を使い、“胃袋のすり合わせ”を通して二人の味を見つけるプロダクト。
▲「めおとみそ」チームのデザインは福井市のデザイナー三田村敦さん(右から2人目)にご協力いただきました
一緒に暮らしはじめた新婚夫婦をターゲットに、さまざまな種類の味噌をブレンドして食べ比べながら、二人の好みの味を見つけられるキットを考えました。二人で使う汁椀は越前漆器にするなど、福井ならではのこだわりが詰まっています。
▲このままプレゼントできそうな完成度の高いパッケージも好評でした
自撮りもいいけど、たまには親撮り「OYADORI」
会社員の清水一史さん、NPO団体職員の濱見彰映さん、UXデザイナーの藤井正雄さんが考えたのは、両親や祖父母の日常の姿を記録し、家族・親族間で共有できるアプリ。
家族の姿だけではなく、家庭の味や我が家の定番といった家族の“文化資産”を、次の世代が気軽に受け取り、伝えていくための新しい形を提案しました。
「OYADORI」チームの3人は、祖父母世代へのインタビューやリサーチを通して、高齢者の方々が持つ、何気ないけどすごい技を目の当たりにすることが多かったそうです。
大人と子どもの“好き”をつなげる通信社「むすび通信社」
元会社員の坂下佳奈さん、フリーランス保育士の柴田計さん、会社員の牧野真緒さんが考えたのは、10歳の子どもたちとともに、さまざまな形で“好き”を実践する大人を取材、発信するメディア。
例えばサッカー選手になる夢は叶えられなかったけど、指導者やトレーナーになったり、スポーツバーを経営したりなど、違う形で今も“好き”を実践し、イキイキしている大人はたくさんいます。
「“好き”という気持ちは、大人になっても形を変えて育むことができる。子どもたちとともに、答えのない“好き”の形を見つけていけたら」と語る「むすび通信社」チーム。普段から子どもと接する機会の多い3人ならではのアイデアでした。
ふれて、みつける、新しい触覚ゲーム「ふれてみっけ」
デザイナーの瓦井良典さん、グラフィックデザイナーの広瀬祥子さん、会社員の山下敬大さんが考えたのはポケットを使って楽しむ、新しい触覚ゲーム。
「ポケット」という視覚情報が自然と遮断される空間のなかで、さまざまな質感を持つコインに触れると、繊細な質感の違いを感じることができます。視覚に頼らず遊ぶことで、触覚が今まで以上に研ぎ澄まされるようになります。
▲実際の遊び方の様子を寸劇で披露し、会場は盛り上がりました。
第一弾の素材は、福井の代表産業である絹織物(シルク)。シルクといっても織り方によって風合いはまったく異なります。展示ブースでも「ふれてみっけ」で遊ぶ来場者の方がたくさんいらっしゃいました。
パートナー企業から見たXSCHOOLとは
ここまでチームに伴走しながら見守ってくださったパートナー企業のみなさんからも、お言葉をいただきました。
「今日発表の場に立った受講生のみなさんを尊敬しています。XSCHOOLは私にとっても勉強になることが多く、講師陣の引き出しの多さに驚き、毎回コメントを聞くのがとても楽しみでした。みなさんの姿を見ていると、味噌を通してまだまだできることがあると勇気づけられます。今後も何かあれば、全力で協力させてもらいたいと思っています」(株式会社米五 常務取締役 多田健太郎さん)
「120日という短い期間で0から事業を立ち上げるのは、多くの苦労があったと思います。私もみなさんと学びながら、繊維産業の現状をより深く知る機会になりましたし、さまざまな出会いを通して、ものごとには無限の可能性があることを学びました。これからもパートナー企業と受講生のみなさんが経糸と緯糸になって、素敵な未来を織り成していきたいと思います」(荒井株式会社 代表取締役社長 荒井章宏さん)
「XSCHOOLは出会いの場。はじめて出会った人同士がチームになり、それぞれのフィールドが違う中で事業を生み出していくなんて、すごいの一言に尽きます。若い人たちの熱意に私も大きな刺激をいただきました」(株式会社タッセイ 経営企画室室長 松山嘉臣さん)
「ビジネスの枠を超えて感受性の高い人たちが集まるXSCHOOLは、福井では間違いなくここにしかないと思いますし、全国でもこのような場は少ないと思います。さまざまな出会いがあるXSCHOOLをきっかけに、これからも新しいものが生まれていくことを期待します」(株式会社タッセイ コンストラクション営業部 牧野広明さん)
「受講生のみなさんがここからどのように進んでいくのか、今とても楽しみです。決められたスケジュールは今日で終わり。ここからはよほどの覚悟がないと進めていくのは難しいと思います。今日、ここにいるみなさんも、彼らのこれからをぜひ応援していただきたい。そして、興味がある方はぜひXSCHOOLに関わり、参加していただきたいと思います」(株式会社タッセイ 代表取締役副社長 田中陽介さん)
120日もの間、受講生を見守っていただきありがとうございました! そしてこれからもよろしくお願いいたします。
XSCHOOLから見える未来 トークセッション
今回、福井発表会のレビュアーとしてお越しいただいたのは、東京大学先端科学技術研究センター教授の中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)さんとNPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事でアーティストの山出淳也(やまいで・じゅんや)さん。
▲「異才発掘プロジェクトROCKET」をはじめ、自由な学びの場を通して、ユニークな才能を持つ子どもたちの多様性を切り拓く、さまざまなプログラムを手がけている中邑さん
▲山出さんは大分を舞台に、アートからメディア、ビジネスまで、さまざまなプロジェクトを展開されています。
7チームのプレゼンテーションを聞いて、レビュアーの2人はどのように感じたのでしょうか? 発表会の後半には、講師の原田祐馬さん、萩原俊矢さん、高橋孝治さんも加わり、トークセッションが行われました。
――山出さん
県外の人とともにプロジェクトを進めながら新しい可能性を生み出す福井市の姿勢に感動しました。県外の方が福井に通いながら、120日間という短期間でここまでつくったことに頭が下がる思いです。
今日はビジネスプランの審査をする感覚で参加しましたが、そういう視点で見ても、すぐに商品化できそうなものもあり、完成度が高いなと思いました。しかし、現実社会に送り込むのは簡単ではありません。今日を通過点として、可能性を見つけながら魅力を生み出してほしいと思います。
――中邑さん
今日みなさんのプレゼンテーションを聞かせていただき、若い人たちが荒くて表現も拙いなかでも何かをやろうとしている姿が素晴らしいと思いました。1人ではなく3人チームというのがいいですね。点が面になるからこそ起こせるアクションがあると思います。
今の若者に欠けてるのはリアリティだと思うんです。私はよく「1÷81」を筆算でやってみなさいと生徒に言うのですが、そんなことやらなくたってわかるよ、とやろうともしない。物事をわかったつもりになっていて、実際に動こうとしない人が多いですね。XSCHOOLだって、何ヶ月もかけてやったからこそわかったことがきっとあるはず。そこに大きな意味があると思っています。
――原田さん
「動いてみないとわからない」というのは、僕も普段、大学で教えているなかで言い続けているのですが、それでも腰が重い。それはなぜなのでしょうか?
――中邑さん
それはみんなが臆病になっているからなのでしょうね。買い物はスマホで済み、連絡もスタンプ一つで済んでしまう世の中、まずはやってみるという勇気が欠けているのが今の日本の姿なのだと思います。XSCHOOLはそれを変えられる一つのきっかけになるかもしれません。
――萩原さん
結果を出そうとするとどうしても萎縮してしまいがちです。山出さんは各チームへのアドバイスのなかで「もっと突き抜けた方がいい」と仰っていましたが、具体的にはどうすればいいのでしょうか?
――山出さん
突き抜けるには、視野を広げていくことが重要だと思います。今の世の中は完成形とか答えをすぐに求めてしまいがち。例えば「1+1=2」と答えを暗記してしまうことで、「1+1」が「2」ではない可能性を考える機会が失われ、視野が狭まってしまいます。物事をマクロで見たり、ミクロで見たりすることを繰り返すことで、視野が広がり、可能性が生まれていくのだと思います。
――高橋さん
先ほどの発表では、「面白い・面白くない」という視点でもコメントをされていました。社会的な課題を見つめてアイデアを考えていると、つい真面目になり、面白い・面白くないという視点が抜け落ちてしまいます。その点についてどのようにお考えですか?
――山出さん
「何だかわけがわからないけど面白そう!」と体温が上がらないと、こんなにいろんなものが世の中にあふれている今の世の中では、人の記憶には残らないと思うのです。XSCHOOLでも狭い視点で考えて答えをつけ足していくようなアイデアではなく、完成形が想像できないようなものを目指してほしいと期待しています。
――中邑さん
何かをつくろうとすると、採算は合うか、安全かといわれる時代。「面白いから買おう」「美しいから買おう」と教育から変えていかないと、ユーザー自体も育たないのではないかと思います。
▲中邑さんと山出さんの話に来場者のみなさんもメモを取る手が止まりません。
▲さらに会場内からも、幼児教育や公務員のあり方など、興味深い質問が飛び出しました
教育、アートとさまざまな分野で培った中邑さんと山出さんのお話は、時代の先を見据えたこれまでにない価値観が詰まったものでした。有意義なトークセッションの時間はあっという間に終わりを迎え、4時間半にわたる発表会は大盛況のなか終了しました。
▲21名の受講生と講師、パートナー企業、レビュアーのみなさんに、会場から惜しみない拍手が響き渡りました。
120日間、ときにはメンバー同士でぶつかったり、アイデアが振り出しに戻ったりと、さまざまな苦悩を乗り越えながら、21名の受講生たちは「フルスイング」で走り続けてきました。
しかし、発表会は終わりではなく、まさにここからがスタートです。みなさんの応援や期待を原動力に、21名のXSCHOOLメンバーはこれからも走り続けます。応援、どうぞよろしくお願いいたします!
(text:石原藍 photo:片岡杏子)