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XSCHOOL第二期 パートナー企業をたずねて 〜株式会社米五編〜
2016年、福井市で次代のデザイナーを育む小さな教室「XSCHOOL」がスタートしました。第二期となる今年も分野の異なるパートナー企業3社を迎え、全国各地から集った参加者たちとともに新たなクリエイティブの実験を行っていきます。
2017年9月末から始まる第一回ワークショップに先立ち、8月17、18の両日、講師・プログラムディレクターはじめ運営チームがパートナー企業を訪問しました。その模様を3回に分けてご紹介します。
創業185年、福井の味を支えてきた米五
最初に訪れたのは福井市の味噌製造会社「米五」。大本山永平寺御用達の味噌としても知られ、県内のスーパーには「米五のみそ」としてさまざまな商品が並びます。
▲福井に住む方にはおなじみの味噌ではないでしょうか
時は遡り江戸時代。もともと福井城下で米屋を営んでいた本家から、米五の初代が分家し独立。当時「五右ヱ門」という屋号を使っていたため、 “米屋の五右ヱ門”から「米五」と名乗るようになりました。当時の米屋は今で例えると銀行のような存在で、福井藩のなかでも金融機関の役割を担っていたといいます。江戸時代後期には庶民の間で味噌の需要が増えたことから、天保2(1831)年、米五は味噌屋として歩み始めることになりました。
その後、昭和時代に福井を襲った空襲、震災、水害を乗り越え、米五は着実に商いを広げてきました。1965年頃には地元スーパーに流通するようになり、工場設備も近代化。1990年代後半には当時としては珍しい通信販売やECサイトでの販売をスタートさせるなど、時代を先駆けた取り組みに挑戦しています。
▲2006年には味噌の量り売りもできる工場兼店舗を建設
今回は米五の常務取締役、多田健太郎さんによるご案内のもと、米五の味噌づくりを見学しました。
▲多田健太郎さん。「1級みそ製造技能士」の資格を持ちます
店舗の通路を通り抜け、製造工場へ。大きな設備が並ぶ工場内は暖かく、ほんのりと味噌のいい香りが漂っています。
味噌の種類は大きく分けて米味噌、麦味噌、豆味噌の3つ。米どころの福井では米味噌が多くつくられ、米五でも年間約250tを製造しています。
米味噌づくりの工程は、
1. 米を蒸して麹菌をつけ、米麹をつくる
2. 大豆を蒸す/煮る
3. 米麹とやわらかくなった大豆、塩をまぜて熟成させる
工程自体はシンプルですが、煮る温度や時間によって味噌の色や旨みに違いが出るため、少しの差でも大きく味が変わると言います。
本来味噌は寒い時期に仕込み、8~9ヶ月かけてゆっくり熟成させていきますが、米五では専用の貯蔵庫で寝かします。寒仕込みで熟成する蔵の場合は味噌が完成するまでに1年弱〜2年かかりますが、発酵を促す菌が活発に動く温度に保った蔵で熟成させた場合は約2ヶ月で完成します。
▲1回でつくることができる量は2〜3t。こんな大きな桶に入っているので、味噌の状態ははしごを使って確認します
そして、工場のなかでもひときわ目につくのが「大本山永平寺御用達乃味噌」の看板。
▲永平寺御用達の味噌は、米五のなかでも2つしかない越前杉の木桶を使っています
昭和40年頃から永平寺内で行われる味噌づくりをお手伝いしていた米五は、次第にそのほとんどを任されるようになり、昭和54年に正式に御用達となりました。
米五ではさまざまな年代のスタッフが働いています。最近は20代の若者が増えたことで顔ぶれがぐっと若返りましたが、なんと66年勤めているという大ベテランにもお会いすることができました。
▲米五とともに歩んできたベテラン職人で元工場長の伊東さん(右)。若手にとっても心強い存在です
▲伊東さんが持っていた不思議な形のしゃもじ。長年使い続けているため、自然とこんな形に削れていったそうです
味噌を通して新しい価値を提供する
米五には、業務用、直販、ネット通販と大きく3つの販路があります。 業務用はスーパーや飲食店、病院などに卸しているほか、なんと福井市内の全小学校の給食で「米五のみそ」が使われています。
店頭では常時10種類近くの味噌が並び、味噌加工品や季節ごとの商品も販売されています。
▲芳醇で甘めのものから大豆の味がしっかりする辛めのものまで、好みに合った味噌を選べるのが人気
▲少量から購入できるので、いろんな味噌を試したくなります
▲講師たちも味見。気に入って何種類か購入した人も
現在、米五では新しい取り組みが始まっています。
それは「味噌のテーマパーク」をつくるというもの。味噌の美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いから、味噌を使ったメニューが楽しめるカフェや味噌づくり体験ができるコーナーなども予定されています。
▲現在の店舗の隣に建設されるとのこと。今から楽しみです!
「こうすれば売れるよ、とノウハウに沿った方法をやるだけなんてつまらないじゃない。誰もやったことのないものに挑戦して、自分たちもワクワクしたいよね」
と社長の多田和博さん。
▲米五が業界に先駆けて通信販売を始めたのも、多田社長のアイデアによるものでした
そんな社長のもと、社員たちも日頃から積極的にアイデアを出し合い、味噌を通して新しい価値を生み出そうと奮闘しています。
長年、福井の家庭の味を支えてきた米五にXSCHOOLの参加者たちは何を感じ、どんなアイデアをぶつけてくるのでしょうか。今から楽しみでなりません。
text:石原藍 photo:片岡杏子、出地瑠以