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声なき声を探る120日間を経て【XSCHOOL東京プレゼンテーションレポート】
「未来の土着」をテーマに、約120間のプログラムを走らせてきたXSCHOOL。さまざまな視点から地域を見つめ、問いを投げかけてきた6チームが、ついにプロジェクトを披露する日を迎えました。
気持ち良い冬晴れのなか、2020年2月2日に開催された「XSCHOOL東京プレゼンテーション」。会場となった永田町GRiDでは、160名以上の方が見守るなか6チームの発表が行われました。
プログラムディレクターの内田友紀さん、多田智美さんの司会で、発表会がスタート!
まずは福井の風土や産業を紹介するとともに、2019年10月からスタートした約120日間を振り返りました。
期間中のワークショップでは、「未来の土着」というテーマについて議論を重ねてきた6チーム。
福井の風土やパートナー企業が培ってきた技術を丁寧に読み解きながら、どのように自分たちの専門性を掛け合わせるのか、試行錯誤を続けてきました。
なかには最後の最後でプロジェクトを白紙に戻したチームも。
企画書やプレゼン内容もギリギリまで調整し、さまざまな想いを胸に発表に臨みました。
今回、ゲストレビュアーとして参加いただいたのは、「ものづくりをつくる」をコンセプトに、数多くの事業戦略策定と商品開発を手がけるプランナー・プロデューサーの永田宙郷(ながた・おきさと)さん。
そして、ファッションやデザインなど領域を横断し、リサーチャー、スペキュラティヴデザイナーとして活躍されている川崎和也さん。
どうぞよろしくお願いします!
熱のこもった6チームのプレゼンテーション
それでは、各チームの発表をご紹介します!
最初に登場したのは、「こどもかがくピクニック」チーム。
多種多様な地域企業とコラボする「かがく実験」を通して、子どもたちの探究心を育み、企業同士の新たな関係性をつくりたいと発表しました。事前に開催したプレイベントでは「身近な植物で布が染まるか」をテーマに実験。今後は繊維メーカーや電子部品メーカーとのコラボレーションも考えているそうです。
レビューでは、「福井を超えて社会のためになる事業になりえる」と好印象。企業協賛だけでない仕組みづくりやファンづくりについてアドバイスをいただきました。
2番目は「笏谷石(しゃくだにいし)バンク」チーム。
福井市足羽山(あすわやま)近辺で採掘される「笏谷石」は、昔から福井の家などに使われていた身近な石材でしたが1998年に採掘が終了。水に濡れると青緑色に変化する美しい笏谷石を多くの方に知ってほしいと、個人や解体業者、石材メーカーをつなぐ仕組みを考えました。
「自然環境に負荷をかけず、既存のものを循環し、価値を見出すのは良い取組み」とレビュアーの永田さん。笏谷石だけでなく、地域由来の素材が手に入る仕組みにも発展できそうと、新たなヒントも飛び出しました。
次に登場したのは、過去のXSCHOOL / XSTUDIO参加メンバーによって結成された「ノカテ」チーム。
福井県の県花「越前水仙」が咲き誇る越前海岸では、手入れの大変さや農家の高齢化などから担い手が不足。群生地の景観を守り、地域に暮らす人々と協働しながら新たな生業をつくる壮大なプランを展開しました。
レビューでは、レビュアーがメンバーに「文化を残す意義」を問いかける場面も。香りの良い水仙から香料を抽出する実験を「こどもかがくピクニック」とコラボしてみては? と、プロジェクトを掛け合わせるアイデアも。
4番目の発表は「喜贈(きぞう)文庫」チーム。
古紙リサイクルを手がけるパートナー企業・株式会社増田喜のリサイクルステーションに、きれいな状態で捨てられていた本が多く見つかったことから、手放した本を新たな読者に届ける文化を提案しました。「贈ることが喜びにつながる風景」を目指し、本を回収する「喜贈文庫ベース」を県内各所に設置予定です。
本を捨てる時には、多かれ少なかれ心のどこかにためらいがあるもの。本好きの気持ちを昇華したプロジェクトはレビュアーからも講評でした。また、「喜贈文庫ベース」というリアルな場が、新たなコミュニティの場になる可能性も示唆されました。
5番目のチームは「Tonkan terrace」。
福井出身東京在住メンバーの実家にある作業小屋に「ものづくりを通してあらゆる人が集える地域拠点」をつくる計画を発表しました。建具職人だった祖父の道具も揃っている作業小屋。3Dプリンターなどデジタル機器も設置し、FabLab(ファブラボ:多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房)のような機能を供えた新たな地域交流を生み出したい、と語りました。
発表を受け、「当たり前のことを学べる場所として、木工だけでもいいのでは」と永田さん。一方、川崎さんは「福井から世界のFab施設とつながる拠点は面白い。もっとデジタルで遊ぶべき」と語るなど、「デジタル機器は必要か否か」でレビューは盛り上がりました。
ラストは「Talk Stay」チーム。
近年、外国人労働者が増えている福井。リサーチのなかで、在日外国人は日本の生活をエンジョイしているものの、日本人との接点がないことを知りました。そこで、在日外国人の方と気軽に相談・交流ができるアプリ「Talk Stay」を制作。SNS上でホストファミリーになり、お互いの文化を知ることで関係を深めるものでした。
日本人には当たり前のことも、外国人の方にはわからないことがたくさんあるもの。そんな壁を取り払うプロジェクトに、レビュアーの2人も高く評価していましたが、日本人側のホストをどのように増やしていくか、工夫する点もありそうです。
レビュアーのお二人の鋭い考察と的確なアドバイスは、福井発表会に向けて大きな力となったはず。一言一句聞き漏らさぬようメモを取るメンバーの姿が印象的でした。
会場では、各チームが生み出したプロジェクトの企画書やプロトタイプ(試作品)の展示ブースを設置。休憩時間には各ブースで人だかりができ、賑わいを見せていました。
発表会を振り返って
すべてのプレゼンテーションが終わり、ラウンドトークへ。レビュアーのお二人と、プログラムディレクターの原田祐馬さん、坂田守史さんに登壇していただき、6チームの発表を振り返りました。
川崎:
今回のXSCHOOLは「未来の土着」という難しいテーマでしたが、各チームがそれぞれに解釈を加えたプロジェクトを発表していました。「土着」は僕なりの言葉でいうと、「声なき声」。地域に根づいているものの、まだスポットライトが当たっていない価値を探り当てるのが、今回のXSCHOOLだったのではないかなと思っています。福井にある「声なき声」を深く潜ってすくい上げる、そんな120日間でしたね。
永田:
XSCHOOLの取り組みは、これからの地域産業やコミュニティのあり方など、未来に問いをつくりながら、可能性を広げる役割が大きいなと感じました。私は福井に行くことが多いのですが、福井には長い時間をかけて生み出したお金で買えないものが残っています。そんな福井の良さを活かすことが、これから重要になってくるのではないでしょうか。
坂田:
「未来の土着」は噛み砕きがいのあるテーマですよね。土着って過去の話のように思いますが、今回はそれに「未来」という時間軸が違う言葉も入っています。世の中が目まぐるしく変わっていくなかで、どのように未来を意識し、地域に何を根づかせていくか。今のうちにその可能性を掴んでおかないと、消えてしまうものがたくさんあるのではないかと考えています。
「土着」と「公共性」の関係
土着として地域に根づいていくためには、多くの人が参加し利用できる“インフラ”のような要素も必要なのかもしれません。トークでは「公共性」というキーワードについて考える場面もありました。
原田:
僕は最近「公共性」、つまりみんなが参加できる場所のあり方に興味があるのですが、残念ながら、うまく設計されていないものも多い。今まさに考え直す時期にきているなと感じています。「未来の土着」を考える上でも「公共性」は少なからず関係していると思うのですが、その点はいかがでしょう?
永田:
例えば、役場の仕事を職員の方たちは「サービス業」だと例えることが多いと思うのですが、最近だと、「病院」に例えることがあるそうなんです。つまり、社会の淀みを取っていく役割だと。でも、今回の発表を聞いて、役場でなくても私たち一人ひとりが地域のなかで“淀みを取る存在”になれる可能性があるなと感じましたね。
坂田:
「公共性」という言葉には官民的なニュアンスを感じるかもしれませんが、思想家のイヴァン・イリイチの言葉にもある「コンヴィヴィアリティ(共生する)」ということなのかなと思っています。どのように地域で培ってきた風景をともに見て、ともに生きていく場所をつくり出すか。そこを意識するのが、これからの公共のあり方のベースになるのかもしれません。
原田:
「公共性」を考える上で、“ともにつくる”こともヒントになると思っています。永田さんは普段の仕事で、つくることが人とのコミュニケーションや土着を生む可能性になると感じることはありますか?
永田:
それは日々感じますね。ただ、つくり手の存在を感じながら、物の良さや背景を確かめていく。あらためて「物語」を再編しなくてはならない時代になったなと思っています。
あと、福井の伝統工芸の世界では、「1500年前の〜」という言葉が当たり前のように出てくるように、時間をかけて「反復してきたもの」が残ってきました。地域のものづくりは血縁や固有のコミュニティのなかで技術が受け継がれてきたからこそ、その土地の地域性や人間性を守ることにもつながっていったのだと思っています。
地域におけるテクノロジーのあり方
今回の発表では、デジタルなコミュニケーションを構築していくプロジェクトがありました。普段からさまざまなデジタルテクノロジーに関わっている川崎さんはどのように感じたのでしょうか。
川崎:
スマホがあれば誰でもデジタルプラットフォームにアクセスできる時代で、これからの未来を考えると、僕はローカルにこそテクノロジーが必要だと思っています。テクノロジーはすべての趣向性を均質化しやすい側面はありますが、そのような時代でも、その土地ならではの固有性やそこに住む人たちの想いを探究することに意味があると感じています。プリミティブ(原始的)な意味での土着、デジタルな視点での土着をあわせて考えることに、未来の可能性が広がるのではないでしょうか。
永田:
日本で「FabLab」を最初につくった田中浩也さんは、FabLabのことを“未来の図書館”だと言っていました。図書館は本来、過去の知恵を学ぶための場所だったはずが、いつからか本を読むだけの場所になってしまった。同じように、リアルタイムで世界とつながり知識や技術を上書きできる場所として期待されていたFabLabも、単にものづくり体験の場所になっています。安易にテクノロジーを導入するのではなく、本来の目的を理解し、浸透するような仕組みをつくることが重要ですよね。
川崎:
そこは僕もすごく共感できます。ただ3Dプリンタでモノをつくるだけなら、使える人がいなくなった時点で成り立たなくなりますから。デジタルにおいても、そこにどんな人がいて、どんなつながりが感じられるかが大切なんだと思いました。
プロジェクトを持続させるには
ラウンドトークの最後は会場からも質問が挙がり、「プロジェクトの持続」に関する話題で盛り上がりました。
ーープロジェクトを続けていくには、「信念」「お金」「気軽さ」が大切だと思っていますが、どんなに想いがあっても、止まってしまうことがあります。どうすればプロジェクトを続けていくことができるのでしょうか?
川崎:
まず演技でもいいから、「私はこれが好きだ」「この分野に長けている」と自分に言い聞かせて動いてみること。そのうち本当にそう感じ、のめりこんでいくと思います。あとは、チームより大きく企業より小さい規模の集団で始めると、プロジェクトがスムーズに回っていきやすいと感じています。
永田:
僕は「ててて見本市」というものづくりのイベントを9年やっていますが、一緒にやっているメンバーは共同発起人というより、もはや家族。“一緒に生きていける人”と組めるかどうかはとても大事ですし、プロジェクトの寿命の長さにつながると思います。
坂田:
僕も、一緒に同じ風景を見れる人がいれるかどうかは大事だなと感じています。あとは没入して考え続けること。内省的でしんどいかもしれませんが、そういう姿勢もプロジェクトを続けるためには必要かなと思いますね。
原田:
プロジェクトを「他者のものにしても大丈夫な状態にする」ということも大事だと思っています。例えば、XSCHOOLは誰か一人のものではなく、関わる一人ひとりが「自分のプロジェクト」だと感じているはずです。そうすることでより良いプロジェクトにしようとみんなで考えるようになる。それがプロジェクトの面白さだと思うんです。
これまでさまざまなプロジェクトを手がけてきた4人の言葉は、どれも説得力のあるものばかり。多くの学びに溢れたラウンドトークでした。
最後は福井の地酒とともに交流会
発表会の最後は福井の地酒とおつまみが登場し、交流会が行われました。
会場では地酒を片手に福井トークで盛りがったり、プレゼンテーションでは説明しきれなかった想いをメンバーが語ったりなど、あちこちで盛り上がりを見せていました。
たくさんの感想やエールをいただき、メンバーたちはさらに気合が入った様子。どのチームもブラッシュアップを続けながらより良いものを目指し、翌週に控えた福井での最終発表会に挑みます!
text:石原藍 photo:片岡杏子