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XSCHOOL2019

未来へ介入するデザインのヒント【第2回ワークショップ】

「未来の土着」をテーマにスタートした今期のXSCHOOL。10月の初回ワークショップでは6つのチームが結成され、パートナー企業の技術や社会課題、福井の地域性を読み解きながらプロジェクトの構想を開始しています。

11月23、24日に行われた第2回ワークショップでは、これまでのディスカッションやリサーチをもとに各チームが発表。アドバイザーやディレクターからレビューに添えて示された幅広いジャンルからの事例もヒントに、さらなるコンセプトのブラッシュアップを図っていきます。

フィールドワークからはじまるデザイン

まずは今期のXSCHOOLアドバイザー・佐々木千穂さんのレクチャーからスタート。佐々木さんは綿密な行動観察からターゲットへの深い理解を得ていくエスノグラフィや、エクスペリエンスデザインの専門家として国内外のプロジェクトを数多く手がけています。今回のレクチャーでは参加メンバーに対し、XSCHOOLのプロジェクト創出でも重要になるフィールドワーク手法としての「オブザベーション(観察)」について、実例を基にした解説を行っていただきました。

佐々木さんは2005年からグッドデザイン賞の審査員も歴任されており、注射に恐怖を感じてしまう糖尿病患者さんへ寄り添うことから技術革新につなげた「痛くない注射針」の受賞例をイントロダクションとして紹介。また、ノートパソコンを酷使する新聞記者など「ハードモバイラー」と呼ばれる人への密着取材を行った大手電機メーカーとの共同プロジェクトや、都市開発予定地の住民目線でのリサーチ、持続的な水産資源の実現を目指す会社のインキュベーションなどの実績を踏まえ、

「ものをつくるのではなく、ものを通じてどんな経験をさせたいのかを考えていくことが重要。デザインの本質は、人を巻き込み、人を理解して誰かのためにつくること」と語りました。

 

佐々木さんはこれまでのフィールドワークから、デザインの過程を
①素材集めとしての観察から、人々の思いに触れる
②アイデアを並べ、どんな経験をさせたいか考える
③経験を体験・強調できるプロトタイプを製作
と説明。

観察対象の周りで何が起きているかが大事とし、XSCHOOLメンバーに向けては「周りの状況に目を配り、それぞれ違う経験や視点から一緒に観察しつつ、さまざまな角度の視点を共有してほしい」とアドバイスしました。

▲「問題の本質に気づけたり、誰かに気持ちを寄せたりすることができるのが、観察行為の良いところ」と話す佐々木さん


フィールドワークのコツは、グループ全員がピンとくる方向に定まるまで、何度も立ち戻って議論すること。「ブレまくることも失敗することも必要だけど、決断したらもうブレてはいけません」と語りました。

佐々木さんの言葉を真剣に受け止めたメンバーたち。具体的なプラン立案に向けて、多くの気づきが得られたようです。

各チームがアップデートを発表

 

前回のワークショップから約1か月、各チームはメンバー同士のディスカッションやリサーチを行ってきました。個人の興味関心のすり合わせやリサーチ結果を共有しつつ、各チームのテーマが少しずつ浮かび上がってきたようです。

 

 

あるチームは、「顔の見える経済」をテーマに設定し、つくり手と買い手の循環によって未来の土着が生まれる関係づくりを考察。消費者がものを買うだけではなく、つくり手にもなるというプランを発表し、実例として3Dプリンターを活用して廃棄物からものづくりを行った試作品を持ち込みました。

 

▲かに殻を粉末状にして混ぜた樹脂フィラメントからつくられたハサミ

 

▲過去のXSCHOOL参加メンバーで結成されたチームは、リサーチ結果や個人の関心を可視化した大きなスクラップを展示

 

 

各チームの発表内容は全体でのディスカッションの対象に。今後の方向性やリサーチ手法について、ディレクター陣やアドバイザーがさまざまな事例を引き合いにアドバイスしていきます。プロジェクトの具体化をイメージしながら、「自分たちがプロジェクトを実行していくんだ」という意識が、各チームで少しずつ高まっていったようです。

デザインを探る方法とは?

2日目にはデザイナーの吉行良平さんが来場し、ゲストレクチャーが行われました。吉行さんは昨年のXSTUDIOでスタジオリーダーとしてチームを牽引。その経験もふまえ、国内外のプロダクト事例や自身の創作活動を紹介していただきながら、未来に残るデザインについて考察していきます。

▲数々のプロダクトデザインを行う吉行さん。昨年のXSTUDIOではSTUDIO Cのリーダーを務めました

 

吉行さんがまず挙げたのは、オランダの動物園の事例。ヒトと目が合うことで興奮し、来場客を傷つけてしまうゴリラによって、集客に悩んだ動物園が制作したユニークなサングラスです。

▲レンズ部分に視線を外すデザインが施されたサングラス。フレーム部分には保険会社の広告が入っています

このサングラスによって、ゴリラへの対策だけでなく、デザインが話題になり結果として集客にもつながったそう。このようにデザインには問題解決だけではなく、様々な可能性を広げる場合もあり、そのこともデザインの大きな魅力だと吉行さんは語ります。

また「身近なものに対して問いを立てることが大切」と強調し、「自分の五感を使い仮説を立てて、必ず検証結果を見てほしい」とアドバイス。さらにデザインをつくる上で守ってほしいこととして、「面白いと感じるものを見つけたら、具体的にどの部分のどんな事柄なのかを確認する。そして落ち着いて笑顔で取り組むこと」をルールとして掲げました。


吉行さんのユニークな事例により大いに盛り上がるレクチャー。続いてはフローチャートから物事を見つめる行為とラピッドプロトタイプ(製品開発の手法)の実験です。

メンバーたちは「白い卵」を題材に、思いつくイメージ・事象を言語化するフローチャートづくりと、紙だけでつくる卵を落としても割れない装置づくりに挑みました。

▲対象物からあらゆる可能性や事象をつなげていくフローチャート。異なる事象の共通点や思わぬアイデアのバイパスがつながることがあるそうです

▲続いて、紙と簡易な文房具のみで高さ2.5mから卵を落としても割れない装置を即興でつくりました

▲実験結果に一喜一憂するメンバーたち。成功したアイデアは大いに盛り上がりました

 

実験を終えて吉行さんは、「デザインには、解答が用意されているわけではない。新しい技術や知らないことを積極的に知ろうとすることも大事なこと」と説明。「無数の定義の中から良いデザインを探る方法は、考えをまず形にし、それを自分自身で体験、体感してみることです」とメンバーたちに体験することの重要性を伝えました。

テーマの絞り込みへ

▲レクチャーの合間にディスカッションを続ける各チーム。これまでの気づきや意見を共有しながら、コンセプトの絞り込みを行っていきます

2日間のワークショップの最後には、改めて各チームから現状テーマの発表を行いました。アドバイザーやディレクターたちの多角的な視点によるアドバイスを受け、テーマが振り出しに戻ったチームやテーマの絞り込みに苦戦するチームも。一方で、まだまだ具体化には及ばないものの、メンバー同士が打ち解けていくことで少しずつ進むべき方向性が見えてきたチームもあるようです。

 

全4回のワークショップも今回が折り返し地点。次回は各チームが具体的なプロジェクト案とそれに伴うプロトタイプを試作してくることを課題とし、いよいよプロジェクトの具体化を図っていきます。

 

text:Syota Ban(fuプロダクション) photo:Yasuhiko Kinoshita


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