新郎新婦が夫婦として新しい一歩を踏み出す結婚式。二人の想いをカタチにし、人生の節目にふさわしいひとときをプロデュースしているのが、福井出身の大嶋歩さんです。大嶋さんは結婚式場や企業には所属しない「フリーランスのウェディングプランナー」。今の働き方に至るまでの話やこれからやりたいことについてうかがいました。
大嶋さんが今の仕事をはじめたきっかけを教えてください。
高校まではずっと都会に憧れていて、福井を出て外の刺激を受けたいと思っていたんです。ファッション関係の仕事に興味があったので、専門学校で学ぶことも考えていましたが、周りからの勧めもあり、関西の大学に進学することになりました。
大学ではフランス語を学んでいました。ファッションと言えばフランスだと思って(笑)。でも、途中からやっぱり違うなと感じるようになり、福井に戻って服飾専門学校に通い直しました。そこで「ファッションがライフスタイルに大きな影響を与える」ということを知り、ファッションを通して「衣食住」全般に関われる仕事に興味が移っていったんです。果たして福井にそんな仕事があるだろうか、と探していたところ、結婚式をプロデュースする会社と出会いました。
当時はレストランウェディングが流行っていたのですが、レストランの経営者はウェディングのノウハウがあるわけではありません。そこで、私たちがレストランと新郎新婦の間に入り、式の段取りなどをプランニングしていましたが、4年前に独立して今のようなフリーランスのウェディングプランナーとして仕事をしています。
仕事のなかで心がけていることは何ですか?
私、初めて新郎新婦にお会いしたときは、たわいのない話しかしないんです。最初からぐっと距離を詰めず、まずはいろんな話題を振って二人を知ることを大切にしています。人によって細かく連絡を取りたい人もいれば、ここぞという時の連絡だけでも十分な人などさまざま。新郎新婦の雰囲気をしっかり把握して自分のテンポを柔軟に変える、それが仕事で大切にしていることですね。
これまでの仕事で印象深かったものについて教えてください。
新郎新婦のご要望に応えるため、これまでスキー場や森、崖の上など、いろんな場所で挙式を執り行いました。田んぼに仮の神殿を建てたこともありましたね(笑)。
そのなかでも自分の仕事に大きな影響を与えたのは、「ホスピス」での挙式です。挙式といっても、入場して指輪交換をしただけのシンプルなもの。病床の親御さんのベッドを運び、起き上がることができる数十分だけの時間でしたが、とても厳かで、新郎新婦からの感謝の想いが伝わる素晴らしい式でした。
この仕事をはじめて15年くらいになりますが、以前は自分の手数の多さが強みだったんです。「結婚式でこんなこともできますよ」って(笑)。でも、「ありがとう」という想いを伝えたい人に伝えることができれば、結婚式はそれで十分成り立つのだなと思いました。結婚ってこういうことかと、その時やっとわかった気がします。私にとって結婚式は、派手なパーティーで目立つことではなく感謝を伝える場。入学式や卒業式、成人式と同じテンションなんです。
率直におたずねしますが、福井に帰ってきてよかったですか?
大学進学で福井を出るまでは、ずっと県外のことをうらやましく思っていました。実際に出てみたら楽しかったし、今でも都会でバリバリ活躍している友人を見ていいなと思うこともありますが、外に出た経験があるからこそ、福井の良さも感じますね。例えば、今住んでいる場所では町内会や子どものPTAにも関わっているのですが、いろんな世代とコミュニケーションをとりながら地域のことを考え、それを子どもたちに伝えています。「次の世代に継いでいく」という意識は、都会にいたらまず持てなかったような気がします。昔はコミュニティなど意識することはありませんでしたが、最近ではプライベートも仕事も福井のさまざまな人たちと関わりながら日々学ばせてもらっています。
最後に、大嶋さんが思い描く夢は何でしょうか?
私が現場で新郎新婦のプランニングに携わるのは30代までかなと思っています。40代以降は次に続く若い世代のために動いていきたいですね。フリーランスとしてやっている県内のウェディングプランナーは今のところ私だけなのですが、時々興味を持ってくださる若い人からの問い合わせがあるんです。でも「フリーランスでやっていけるか不安」という想いはあるようで……。
周りを見渡せば、いろんな職業でフリーランスの人が多いような気がするんですよね。「福井は個の力が強い」と県外の人から言われることもあるのですが、たしかにその通り。福井こそフリーランスという働き方がしやすい土地ではないかと思っています。会社に所属するのと違い、フリーランスは自分で仕事をつくるもの。プライベートで遊びに行っても「このレストランなら何人入るかな」「この時間帯なら光が入ってきれいだな」と、常に会場の下見に行っている気分なのですが(笑)、いつ出るかわからない芽のためにずっと種まきをしているような感じです。「こういう仕事をやりたい!」と思ってくれる若い世代の人たちのためにも、しっかり道筋をつくっていきたいですね。
(text:石原藍 photo:出地瑠以)