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しごと道
福井ではたらく人たちの「はたらき方」に焦点を当て、それぞれが大事にしていること、今考えていることを語っていただきます。
今回は福井市国見地区にあるクラゲ専門店「Atolla」の田中俊之さんが登場します。

田中俊之さん/Atolla 代表

Atolla
田中俊之さん

越前海岸沿いに広がる福井市国見地区。ここに国内でも珍しいクラゲ専門店「Atolla(アトゥーラ)」があります。店内に一歩足を踏み入れると、大小さまざまな水槽にクラゲがゆらゆらと漂っていて、何とも幻想的です。代表の田中俊之さんは元水族館職員という経歴。福井でクラゲ専門店を開いた理由や、これから挑戦したいことを伺いました。

 

「クラゲ専門店」って具体的にどんなことをしているんですか?

越前海岸から京都あたりまで、主に日本海側で獲ったクラゲを全国の水族館や海の生き物を扱う問屋に販売しています。もちろん、一般のお客様にも販売していて、ペットとして飼う方や、子どもの自由研究として飼う方もいます。

 

クラゲは暖かくなる3月以降になると、一気に増えます。うちで扱うクラゲは多いときで20種類くらい。漁師さんからの情報や天気・潮位をもとに漁港を回り、海に潜ったり岸壁から獲ったりするんです。クラゲは傷つきやすいので、柄杓のようなものですくって獲るのですが、知らない人から見ると、何やってるんだろうと思われることもありますね(笑)。

 

 

小さな頃から生き物が好きだったんですか?

そうですね。 “人以外の動くもの”に対する知的好奇心が旺盛で、動物図鑑や飼育図鑑が大好きな子どもでした。僕は福井市の高木地区というところで生まれ育ったのですが、その当時はまだ田園地帯で、家の近くにはいろんな生き物が住んでいたんですよ。小学生の頃はひたすら用水路でザリガニを獲っていました(笑)。

 

高校でベースを弾きはじめて、音楽にハマる日々。卒業後は郵便局に就職したのですが、音楽で身を建てようと東京に行った友人もいました。そうすると、夢に挑戦する生き方ってかっこいいなと刺激を受けるんですよね。自分も好きなことにのめりこみたい! でもそれって何だろうと考えた時に、自分の原点である「生き物と関わること」だと思ったんです。

 

働きながら、まずはトリマーになる専門学校に通ったのですが、ペット以外の動物のことを学ぶ環境が当時福井にはなくて。両親には猛反対されましたが、仕事をやめて東京の学校に通いはじめました。

 

クラゲに出会ったきっかけは?

上京後、学校の夏休みに神奈川の水族館で実習に入ることになりました。そこではじめて担当したのがクラゲだったんです。クラゲは水流がないと生きていけない生き物。水質が悪くなるとカタチが崩れてしまうので、思った以上に飼うのが難しかったですね。展示にも工夫が必要で、どうやったら美しく見えるかライティングにこだわったり、子どもから大人まで伝わる説明文を考えたり……。水族館の職員は生態のことは知っていて当たり前。自分よりはるかに知識がある人が多く、それが嬉しくもあり悔しくもあり、とにかく生き物の勉強にのめりこみました。

 

その後、その水族館で働くことになりますが、屋久島でウミガメの生態調査のボランティアを経験したり、出張水族館の担当を任されたりなど、クラゲ以外の生き物にも関わります。結局、関東には7年ほどいました。

 

 

では、福井でなぜクラゲ専門店を?

父親が急逝し30歳手前で福井に戻ってきました。福井の水族館でも働いていましたが、実家の家業を手伝いながらだったので、両立が厳しくなってきたんです。生き物の魅力を伝える仕事がほかにないか、探してみても自分が思うような企業が福井にはない。それなら自分で立ち上げようと思いました。クラゲを扱うお店は北陸はもちろん、全国でも珍しいですし、やはり自分が関わった生き物ということで親しみもありましたね。

よく、「クラゲが一番好きなんですか?」と聞かれるのですが、そういうわけではないんです。生き物に対してはフラット。クラゲもウミガメも、カエルも猫も全部好きです。

 

 

今後挑戦したいことはありますか?

最近、越前海岸ではじまったのが、福井の特産品「汐雲丹」の材料となるバフンウニの試験養殖。今は試験段階ですが、福井の海から資源をいただいて福井の特産物をつくる、本来は当たり前だった営みを取り戻したいと考えています。また、東京から戻ってきてあらためて福井を見回してみると、「この環境が自分を育ててくれた」と感じることが多く、ゆくゆくは国見地区に小さな水族館を開いて、地元の人たちに喜んでもらいたいという思いもあります。

 

実は海の生き物に関する研究は圧倒的に太平洋側が進んでいて、日本海側はまだまだ解明されていないことが多いんです。養殖なのか、それとも展示や研究なのか。どんな形になるかわかりませんが、これからも生き物の魅力を伝える観点から福井を盛り上げていきたいですね。

 

text:石原藍 photo:片岡杏子

 

Atolla(アトゥーラ)
福井市鮎川町167-3-6
090-6536-8346
http://www.atolla.sakura.ne.jp/

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