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しごと道
福井ではたらく人たちの「はたらき方」に焦点を当て、それぞれが大事にしていること、今考えていることを語っていただきます。
第10回はディレクター・プランナーの坂田守史さんが登場します。

坂田守史さん/ディレクター・プランナー

ディレクター・プランナー
坂田守史さん

ディレクター・プランナーとして、企業の商品開発やブランディング、自治体の観光戦略などさまざまなプロジェクトを手がけている坂田守史さん。仕事の内容やはたらき方だけではなく、福井を離れたことがあるからこそわかるまちの変化や可能性についてもうかがいました。

 

まずは、坂田さんのこれまでの経歴や仕事について教えていただけますか?

福井で生まれ育ち、高校まで福井にいました。よく文化系に見られるのですが、中学から大学までバスケットボールをやっていたので、実は根っからの体育会系(笑)。父親がインテリアデザインの仕事をしていて、仕事の現場に遊びに行くことも多かったです。

 

小さい頃から家族旅行では寺社仏閣や有名な建築物を見ることが多く、高校の時は建築現場でアルバイトをしていたので、将来は宮大工になろうかなと思っていました。高校では英語コースを専攻していたので、「大学に行くなら翻訳でも学ぶか」とたいして進学に積極的ではなかったんです。でも、高校3年のときに彫刻家 イサム・ノグチの『モエレ沼公園』のビデオを観て衝撃を受けました。“ランドスケープ”という言葉にその時はじめて出会い、それをきっかけに神戸の大学に進学し、環境デザインを学びました。

 

在学中から福井にいる父の仕事を手伝っていたので、地元に戻ることには何の抵抗もありませんでしたね。修士課程を修了して24歳のときに福井に戻り、企業の商品開発やブランディング、自治体の観光戦略づくりや施設のソフト計画など、さまざまなプロジェクトに関わらせてもらっています。

▲商品開発を手がけた「MITATE」という漆器シリーズは、坂田さんにとって思い出深い仕事の一つ。木地は山中や越前、下地は輪島、上塗りは越前と全国各地の漆器産地がコラボしたもの。 (Photo by Yasuhiko Kinoshita)

 

 

仕事のなかで心がけていることはありますか?

クライアントは企業や職人、自治体など業界も業種も幅広く、商品開発からワークショップの講師に至るまで、求められる仕事もさまざまです。企業であれば技術を育んできた背景、伝統工芸であれば職人の個性やものづくりの目指す方向性など、どんな仕事であってもクライアントが培ってきた「文化」を汲み取ることを心がけています。

 

例えば、最近は観光の仕事で県外に行くことが多いのですが、できるだけ仕事がある日の前日に現地入りするようにしているんです。1日かけてその土地をめぐり、歴史や地形などから地域文化にふれると、今まで見えなかった課題や本質的なことが見えてくることもあります。競合や市場を調べることはもちろん必要ですが、その土地にある場所の力のようなものを特に大切にしていますね。

 

普段から何の仕事をしているのかわからないと言われることも多いのですが(笑)、たしかに僕の仕事は特殊で、具体的な依頼よりも相談から入ることがほとんどです。最初は商品開発の相談だったのに、話を聞いていくうちにまったく違う提案になることも珍しくはありません。でも「あそこに頼むと何とかなる」と信頼してもらえるのは嬉しいですね。

 

 

話がさかのぼりますが、坂田さんがUターンした頃、福井のまちは昔と変わっていましたか?

福井駅前は特にさびしくなっているなぁと感じました。高校時代の遊び場はまさに駅前だったんです。買い物もできるし、一人で遊びに行っても誰かに会える。そんな場所だったのが、空き店舗の多いシャッター街になっているのは残念でしたね。だからこそ、まちの賑わいが戻ればと思い続けていました。

 

Uターン後、まちづくりの仕事に少しずつ携わるようになったのですが、当時は広くアイデアを求めても正直ポジティブな意見はあまり出てこなかったです。新しいことをやろうとしても地域の方々が渋い顔をすることが多く、会議を開けば行政批判も多かった。その頃を思うと、ここ7~8年くらいで福井のまちの雰囲気は大きく変わっていったような実感があります。

 

 

何がきっかけで福井のまちは変わったと思いますか?

やっぱり人ですよね。IターンやUターンで福井に来た人や若い人たちが場をつくったり、活動を始めたりと、新しい動きが少しずつ同時多発的に増えていったような気がしています。

 

私たちも2012年に福井駅前を拠点とした『きちづくり福井』というNPO法人を立ち上げました。まちづくり福井株式会社主催の「まちの担い手ワークショップ」がきっかけだったのですが、さまざまな年齢・職業の人がまちの賑わいを取り戻すためにどうすればいいかを議論したんです。駅前で商売をしているわけでもなく、住んでいるわけでもない人たちが、なぜこんなに熱くなれるんだろうと当時は思っていましたが、おそらくみんなが潜在的に「福井のまちがもっとよくなればいいのに」という想いを持っていたのだと思います。

 

『きちづくり福井』の活動は、空き店舗のシャッターを1つ開けるところから始まり、空き店舗を活用した「裏路地フェスティバル」や6年目になった今も「キチバル」など定期的にイベントを開催しています。初期メンバーは35人ほどでしたが、現在は200名以上にまで増えました。なかには活動をきっかけに空き店舗を利用して事務所を構えたり、お店を開いたメンバーもいますね。

 

これまでのまちづくりは、利害に直結している人たちだけで進められてきたように思います。そのため関わるメンバーが変わらず、血が濃すぎるというか、考えも固定しがちでした。利害関係のない人やよその人たちがゆるやかに加わりながら活動を続けることで、まちの雰囲気はこんなにも変わっていくんだということを実感しています。

 

最後に福井のまちの良いところや期待するところを教えてください。

福井の不思議なところは、一人がつながればみんなつながるという距離の近さがあります。それが良い時も悪い時もあるのですが(笑)。まちづくりに関しても福井にはいろんなプレーヤーがいて、個々がいろんな活動をしています。直接協力するわけではないけど、なんとなくお互いにリスペクトしている感じが、逆に動きやすいのかもしれません。

 

地形的にみても福井は山と海とまちとの距離が近く、自然豊かで資源も多いですよね。よく「福井は情報発信が苦手だ」という話を聞きますが、個人的にはそんなこと気にしなくてもいいと思うんです。昔から培ってきた自然や文化が、これだけしっかり残っているということが素晴らしいんじゃないかな。無理に情報発信しなくても、地域の文化や産業を今のペースで粛々と守り続けていけば、必ずその価値にみんなが気づくときが来る、僕はそう確信しています。

 

(text:石原藍  photo:出地瑠以)


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