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人の流れと営みを、地域に息づかせる力とは XSTUDIO福井プレゼンテーション・エキシビジョン 〜後編〜

NICCA イノベーションセンターで行われた「XSTUDIOプレゼンテーション/福井」。前編では、繊維をテーマにした各スタジオの発表の様子をご覧いただきました。

 

後編はXSCHOOL/XSTUIOプログラムディレクターの原田祐馬さん司会のもと、ゲストレビュアーの伊藤ガビンさん(編集者/「NEWREEL」「マンバ通信」編集長)、田子學さん(デザイナー/MTDO Inc.代表取締役)とスタジオリーダー萩原俊矢さん・ローカルリーダー新山直広さん、坂田守史さんをまじえたクロストークからお届けします。

 

原田祐馬発表が終わり、スタジオリーダーのみなさんはどうでしたか?

 

▲プログラムディレクターの原田さん

 

坂田守史(STUDIO Cローカルリーダー):STUDIO Cでは、田子さんから知的財産についてのアドバイスをいただきました。プロジェクトを自走させるときに必ずクリアしないといけない問題と改めて実感しました。それと同時にシビアななかでも、いかに楽しもうとするかも大切だと感じました。

 

▲プランナーの坂田さん

 

萩原俊矢(STUDIO Bリーダー):4か月間結構大変で、メンバーたちと未来の話をする機会がありませんでした。発表が終わり、これからようやく前を見ていけるなと。STUDIO Bから生まれた5つのプロジェクトは、よく見ると、どれも関心が近い感じがします。それぞれのプロジェクトと今後、どう接していくかを考えていきたいですね。

▲Webデザイナーの萩原さん

 

新山直広(STUDIO Aローカルリーダー):STUDIO Aは、先に行われた東京プレゼンテーションから発表の方法を変えました。プロジェクトを動かしていくには覚悟が必要。今日1人ひとりが決意表明できたことで、気持ち的にすっきりしましたね。テロワールや風土は個人的に気になる話題です。例えば鯖江のめがねも素材はイタリアなど海外からきたものが多く、産地のアイデンティティとは何なのかを考える機会になりました。

 

▲デザイナーでTSUGI代表の新山さん

プロジェクトの実現には時間がかかるもの

原田:レビュアーのお二人はいかがでしたか?

 

伊藤ガビン:チームそれぞれのやり方が垣間見れてよかったです。ワークショップや短期間のプロジェクトは、継続することを考えつつも、発表を終えると満足してしまいがち。でも僕はこの4か月間がエンターテイメントとして機能してもいいと思うんです。これから頑張ります! と言っても、別にやらなくていい選択だってあるわけですから。

 

▲編集者の伊藤ガビンさん

 

原田:プロジェクトを刺激やエンタメとして捉えつつ、「新しいチャンスとして利用します!」と、あえて宣言する人がいてもよかったかもしれませんね。

 

田子學:4か月って短いですよね。僕もひとつのプロジェクトに3年くらいかけますが、地域全体のマインドセットが変化するには、もっと長くかかります。ポートランドなんて30年もかかりましたが、今では世界中から移住するようになってる。日本では行政が単年度で動くので、そこからプロジェクトを動かしていくには、より個人の本気度が試されます。4か月でここまで完成させるのはすごい。これからもぜひ地域のなかで戦ってもらいたいと思いました。

 

▲デザイナーでMTDO Inc.代表取締役の田子學さん

 

原田:今年度初めて、ローカルリーダーに入ってもらったことで、プロジェクトが地域でドライブしていった実感がありました。新山くん、坂田さん、どうでした?

 

新山本気になるには時間がかかりますよね。僕たちが河和田でやっているRENEWもそうでしたし、XSTUDIOはまだこれから本気度が上がってきそうです。

 

坂田夢を語っている3つの企業に背中を押してもらった部分も大きかった。これを福井にちゃんと根づかせていかなきゃと。「責任」というと言葉は重いけれど(笑)、それに似た気持ちを感じつつあります。

 

原田ガビンさんは、プロジェクトに面白さを埋め込んで継続する実践をされてますけど、3チームの可能性やアイデアについてはどう思いますか?

 

伊藤:決意っていうのはね、本当に役に立たないんですよ。賞味期限3日くらい(笑)。築いてきた関係性が継続するのがいちばん大事で、そのためには習慣としてコミュニケーションを取れる場があって、その場がとても楽しい、ということが必要だと思います。プロジェクト自体は、変わっていっていい。「あの会社は、昔レースの会社だったんだよね」って言われるほどに変わっても。

実は2週間前に両親が福井に引越しまして。それまで福井のことはまったく知りませんでしたが、どんどん福井の知識が増えて、存在が近くなってきました。XSTUDIOメンバーのみなさんは、すでにそうなっていると思います。

 

▲期せずして、福井が実家になったガビンさん

 

原田:場があるのは大事ですね。今年、XSCHOOL1・2期生も協力するシーンがありましたが、求められたり、参加したくなる場があるからこそ継続的に入り込めると思います。

 

坂田:XSTUDIOは、パートナー企業もプレーヤーとして私たちと一緒に走っていただきました。そのなかで、メンバーも企業も少しずつ意識が変わっていき、いい状況になってきたと思いました。

 

萩原:パートナー企業がフルコミットし、スピード感をもって取り組んでくれて本当にありがたかったですし、もはやパートナー企業というよりは、メンバー同士の関係でした。福井は地元ではありませんが、呼ばれたら喜んで行きたいと思える場所。僕と同じように行きたがる人も多いと思います。遠隔での関わり方をあらためて考えています。

 

攻めにも守りにもなる、知的財産のあり方とは

原田:レビューのなかで田子さんが仰っていた知財(知的財産)の話をもう少し詳しくお話いただけますか?

 

田子:日本の近代産業では、知財が置き去りにされてることが少なくありません。特にレースは特徴的なものだらけなので、STUDIO Cの発表を聞いて意匠権が気になりました。知財をきちんとおさえることで、レース以外へ横展開したときのレバレッジがききますし、「これは福井の柄だね」「福井産の生地だね」と言えると、レースにもこれまでになかった可能性が生まれるかもしれません。

 

 

原田:知財は無視できない課題ですね。権利を守るだけでなく、特色を外に伝える機能もあるのではないかと思います。

 

伊藤:一方で、たとえば学生のものづくりは、何かの真似から始めるじゃないですか。昔は寛容でしたが、今は大学でも真似しちゃいけないと厳しく教えられるので、不自由でかわいそうだなとも思います。例えば、福井の意匠を集めたデータベースがあって、ストレスなく堂々と真似しながら技術を磨き、発想を広げる環境があると、教育にもいいと思います。

 

原田:今日は行政に関わる方もたくさん来てくださっているので、地域の産業の特色を守り、広めていく上で参考になる話ではないでしょうか。

 

田子:福井をまるっとブランド化するために、行政が知財に関してできる部分は大きい。個人ではなく地域の利益として還元する方法はいろいろあるはずです。

 

 

新山知財関係が苦手で、これまで逃げていたのですが、今回、スタジオで必要に迫られて、はじめて自分で商標登録をしました。福井発明協会の人が丁寧に教えてくれて、めちゃくちゃ勉強になった。ようやく知財1年生まで進級した感じです(笑)。

デザインが入ると没個性になる!?

 

原田:デザインとローカリティの話をもうちょっと煮詰めたいと思います。東京発表会のレビュアーだった若林恵さんが「デザインが入ると、地域の独自な文化や工芸品も、その文脈から切り離されて一元的な価値の元に並べられてしまう」といっていましたが、どう思われますか?

 

伊藤:地域でも企業でも外からやってきてひょいっと仕事をすると、同じようなものが生まれやすいですよね。学生にも「自由に作りなさい」と課題を出すと、オリジナリティを出そうとして似たようなものばかり出てきます(笑)。逆に、「これとそっくりに作って」というと、その人の人生や背景が出て個性が出てくる。

 

原田:いろんな地域のPRでポスターやお土産がどれも同じに見えてしまう状況にも似てますね。もっといろんなことができるのにと思います。

 

田子:デザインの世界では、今まで培ってきたストーリーをどう捉えるか、そのバランスが大事だと思います。これから必要なのは、何が自分たちにとっての本当の価値なのか、共有知を深めていくこと。今までの地域では考えられないような新しい点が打てるといいですね。時間はかかりますが、焦ったところで中途半端になってしまう。ハレーションが起こることで、地域がよくなることもあるはずです。

 

 

会場からも、スタジオを超えた関係性や繊維団体とのコラボレーションの可能性、商標登録の必要性など、さまざまな質問や感想が飛び出し、最後まで白熱したトークが繰り広げられました。

 

XSTUDIOを通してパートナー企業が感じたこととは

クロストークが終わり、これまで120日間、プレーヤーとしても伴走いただいたパートナー企業のみなさんからメッセージをいただきました。

 

村上貴宣さん(明林繊維):もともと時間効率や費用対効果ばかり考えていた私を、XSTUDIOやそのメンバーは大きく変えました。プラスかどうかが明確でなくても、仲間と一緒に夢中で可能性を追求していく時間は、シンプルに楽しかったです。明林繊維も新たなチャレンジが広がっていることもあり、この120日間を生かしたい。さまざまな気づきのきっかけをくれたXSTUDIOに感謝しています。

▲左から明林繊維の高橋菜都美さん、木村真也さん、村上貴宣社長

 

▲「4か月間あっという間でした。実際に集まるのは月1回で不安もありましたが、発表できるものまでつくりあげることができてよかったです」と齊藤康文さん(ジャパンポリマーク)

 

▲「越前和紙のコラボレーションなど、今までの仕事にはなかった活動を今後も継続させていきたい」と吉川紘喜さん(ジャパンポリマーク)

 

▲「メンバーもみなさんはもちろん、協力いただいたXSCHOOL1期生の吉鶴かの子さん、森敏郎さん、鈴木康洋さんにも感謝します」と山本和紀さん(ジャパンポリマーク)

 

荒川道子さん(荒川レース工業):3年前に福井にUターンした時は父の代で会社を閉めると聞いていましたが、結婚を機に主人が続けてくれることになりました。今回さまざまな人と関わり、レースだけでなく繊維の素晴らしさを見出せたことで、これからもレースに関わっていく覚悟を決められました。

▲荒川道子さん

 

荒川拓磨さん(荒川レース工業):福井に来るまでレースとは縁もゆかりもありませんでした。入社以来何かやりたいという思いは持っていたものの、毎日の業務に追われる日々だったので、XSTUDIOはとても良い経験になりました。ここからが本当のスタートだと思っています。

▲荒川拓磨さん

おふくわけチームによるレセプション

すべての発表が終わり、最後はXSCHOOL1期から生まれた「おふくわけ」チームが登場! 福井の地酒とおつまみが振舞われました。

▲ジャパンポリマークの久保浩章社長による乾杯の挨拶

 

▲へしこや麩のからし和え、たくわんの炊いたのなど、福井ではおなじみのおつまみが。XSCHOOL/XSTUDIOから生まれたプロジェクトがピックにあしらわれています

 

▲福井といえば、地酒も美味しいんです

 

美味しいおつまみと地酒を手に、発表を終えてホッとした様子のスタジオメンバーたち。最後までご参加いただいた来場者のみなさんと、いつまでも話は尽きないようでした。

 

まだまだXSTUDIOは続く!? エキシビジョンも開催

大盛況だったプレゼンテーションの余韻も冷めやらぬなか、翌日からの3日間(2月10〜12日)はえちぜん鉄道福井駅にて「XSTUDIOエキシビジョン」が行われました。

▲ガラス張りの駅舎にレースが映えます

 

駅構内のスペースがみるみるうちに展示スペースへと早変わり。通勤・通学で駅を利用する人や通りかかった人も足をとめ、展示に見入ってくださっていました。

▲お昼休みの時間帯には会社を抜け出して見にきてくださった方も

 

▲レースの「よさ」、感じてくださったでしょうか?

 

また、「itoteki」として生まれ変わった明林繊維の倉庫では、期間中、生地のストックを使ったワークショップが行われました。

▲「この場所にこんなにも多くの人が来てくださったのははじめて」と明林繊維のみなさんも驚きの様子

 

 

子どもから大人まで参加したワークショップ。たくさんの生地から好きなものを選んで、くるみボタンやアクセサリーをつくりました。

 

プレゼンテーション、エキシビジョンを経て、ようやく本格的なスタートを切ったXSTUDIO。これからも各スタジオのプロジェクトはゆるやかに続いていきます。一緒に何かやってみたい! 協力できることがあるかも! という方はぜひ仲間になっていただけると嬉しいです。これからも応援をどうぞよろしくお願いします。

 

text:石原藍 photo:片岡杏子


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