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しごと道
福井ではたらく人たちの「はたらき方」に焦点を当て、それぞれが大事にしていること、
今考えていることを語っていただきます。
第7回は料理家、看護師、美容家の肩書きを持つ道廣喜子さんが登場します。

道廣喜子さん/料理家

料理家
道廣喜子

料理家であり、看護師であり、企画コーディネートや美容の分野など、幅広いジャンルで活躍している道廣喜子さん。さまざまな肩書きを持ちながら、プライベートでは高校生のお母さんとして子育ても両立しているスーパーウーマンです。そんな道廣さんのこれまでの人生と子育ての話、仕事の信念についてうかがいました。

 

道廣さんはこれまでどんな人生を歩んでこられたのでしょうか?

私は福井出身の父と金沢出身の母のもとに生まれ、小学1年生の時から福井で暮らしています。父はとにかく教育熱心な人で、勉強はもちろん文章の書き方や礼節にいたるまで厳しく躾けられました。母は専業主婦でしたが、生活のなかに楽しみを見つけることが上手で、四季折々の習わしを暮らしに取り入れ、毎日丁寧に料理をしたり畑を耕したりしていましたね。私は厳しい教育を受けるなかで自分を表現することにフラストレーションを感じていて、文章や絵を描き、料理を作ることを心の拠り所にしていました。大学は芸大を志していましたが、家族の反対もあり医療系の学部に進学。卒業後は公的機関の精神科看護師として10年間、さまざまな症状の患者さんと関わりました。結婚・出産を経験してからも仕事を続けていましたが、生死をさまよう大病を患ったことで生き方を見つめ直した時期もあります。

 

そんなことがあったとは……。そこから今のような仕事を手がけるようになった経緯をもう少し教えてください。

1年ほど入院し、仕事から一旦離れて専業主婦になりました。家庭に入ってみて、自分の母親の凄さを感じましたね。母の後ろ姿を思い出して真似ることで、楽しみながら暮らす発想力を鍛えられたと思います。友人が遊びにくることも多く、「これどうやって作るの?」と聞かれるうちに料理を教えるようになり、専業主婦のはずがいつしか生徒を抱える料理教室になっていました(笑)。その後はカフェを併設しているエステサロンでメニュー開発を手がけるようになり、少しずつ仕事の幅が広がっていきました。今の仕事は商品開発やレシピ開発、健康と食に関する講演や企画コーディネート、文章を書く仕事もしています。依頼された仕事に一生懸命応えているうちに肩書きも増えていき、正直言って職業を聞かれると戸惑いますね(笑)。起業して10年くらい経ちますが、当初は一つのことにプロフェッショナルじゃないと社会に受け入れられない風潮がありました。それでもここ23年くらいの間でポジティブに受け取ってもらえるようになり、「肩書きがたくさんあるから何屋さんかわからない」ではなく、「困ったらとりあえず道廣に相談してみよう」と声をかけていただく機会が増えていったように思います。

仕事ではどんなことを大切にしていますか?

私は病気を経験したことで余生をいただいたと感じているんですよ。今生きていることが奇跡だと思っているので、「仕事でこんな風になってやろう」という野心はないですね。でも、仕事の結果を出すことには強いこだわりがあります。それは私のためではなく、あとに続く人たちのためです。特に料理の分野で企画まで入り込むような人はいないし、仕事を発注するクライアントも福井はまだまだ少ない。福井は素晴らしい食の魅力があるのに、きちんと発信されなければ伝わらないですよね。福井で料理に携わる人たちがたくさん育っていくためにも、私にできることは確実に結果を出すことだと思っています。

 

仕事と家庭(育児)の両立で苦労されたことはありますか

もちろんありましたよー。子供を産んで看護師の仕事と育児との両立はハードでした。預ける保育園も職場から遠く夜勤などもあったので、常に寝不足の日々でした。周りのサポートでなんとか乗り越えられたものの、当時は出口の見えない真っ暗なトンネルにいるようで、辛かったですね。子どもも今でこそ良き理解者として応援してくれていますが、小さい頃は「普通に(会社勤めで)働いているお母さんがいい」と言われることもありました(笑)。でも大きくなるのは本当にあっという間。今頑張っているお母さんに、「焦らなくても大丈夫だよ」って伝えてあげたいです。

 

道廣さんのようにイキイキと仕事をしたい人と思っている人にアドバイスをお願いします

「福井のなかだけでは新しい発想が生まれてこないのではないか?」と聞かれることが多いのですが、インターネットがこんなに発達していると、「ここにいないとこれができない」という制約はないような気がしています。福井はすぐに人と人がつながるし、得意なことを持っているとフォーカスされやすい場所。逆に都会にいる方が個人が埋もれてしまうかもしれません。まずは一つ自分の得意なことを大事にして発信すると、少しずつ何かが動き出していくはず。好きなことや得意なことがあるって、誰かを幸せにできる才能を持っていることだと思うんですよ。みんながそれぞれの才能を発揮しながら身近な人を幸せにしていったら、暮らしがもっと輝くのではないかと思います。

(text:石原藍 photo:出地瑠以)

 


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