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リサーチと実験から見つけた繊維の新たな可能性 〜第2・3回ワークショップ〜
「繊維」をテーマに3つのスタジオが新たなプロジェクトを生み出すXSTUDIO。第1回ワークショップでは、パートナー企業の事業内容や強みを理解するところからスタートし、それぞれのスタジオがリサーチや実験を進めながら、メンバー間のコミュニケーションを重ねました。2018年10月と11月に行われた第2回・第3回ワークショップでは、再びメンバーたちが福井に集合。各スタジオの大きな方向性を見定めながらも、手を動かし議論を重ねて、まずはひたすら可能性を探ります。新たな分野への興味や関心が生まれるごとに、見たことのない地平が広がっていきます。
距離を感じさせない濃密なコミュニケーション
前回のワークショップから約1か月、XSTUDIOのメンバーは福井、大阪、東京などと離れていながらも、濃密なやりとりが繰り広げられていました。
オンラインではプロジェクトの進捗や気づいたことを発信し合い、ときには実際に集まってリサーチに赴くなど、この期間にもさまざまなアップデートがあったようです。
チャットツールやtumblrなど使いやすいツールを、それぞれのオンライン交流の場に設定した3スタジオ。気になった写真を貼り付けたり、アイデアをメモしたり、リサーチの成果をシェアしたり。その合間に、さまざまな試作品が立ち上がり、展開されました。アイデアがアイデアを呼び、一人の試作がたくさんのフィードバックを呼んで新たなプロトタイプにつながっていきます。
繊維との出会いを生み出すプラットフォームづくり
STUDIO Aでは前回、生地のサンプルに表示されているタグの項目を見直し、「繊維業界以外の人たちも新しい生地と出会えるようなコミュニケーションのあり方」をテーマに定めました。
その足がかりとして、最初の1か月はリサーチに集中したSTUDIO A。繊維に関する論文のリサーチをはじめ、繊維の展示会に足を運び、繊維業界にゆかりのある人へのインタビューも積極的に行いながら考察を深めました。そのかたわら、自分たちの活動を知ってもらうための名刺的なツールとして、STUDIO Aの最初の1か月の活動をまとめたフォトブックを制作。
生地との新たな出会いをワクワクするものにし、専門家でなくても気軽に使えるツールとは一体どんなものか。アイデアの1つとして出てきたのが、持ち運びができるサイズの「生地の見本帳」。試作を進めながら、素材や織りの設計、風合いの伝え方についても試行錯誤しています。
なかでも、STUDIO Aが大切にしているのは、背景の伝え方。一見「単なる布」であっても、その布にまつわるストーリーを知ることで大きな価値が生まれます。この生地の何がすごいのか、何が面白いのか、人それぞれ魅力的に感じるポイントは異なるもの。だからこそ、実際に繊維の魅力を体感してもらう場の必要性が生まれてきました。
これって何かに似てるかも……とスタジオ内でリサーチ対象に挙がったのは、なんと「ワイナリー」。繊維や生地における肌ざわりと同様、主観的な感覚である「味覚」を、徹底したパラメータ化によって客観的に表現し、使われるブドウの品種や栽培方法、樽や醸造方法などの要素も合わせてグローバルに共有する仕組みが成立しているワイン業界。また、ワイン好きにとっては生産者を訪れて現場を肌で感じることも大きな喜びです。そんな状況を繊維業界にもつくれたら、好きな布の源流を求めて使い手が産地を訪ねたり、思わず布について語りたくなるような体験が生まれてくるかもしれません。
繊維以外の専門を持つメンバーたち自身が、繊維のプロであるパートナー企業の仕事と出会った時の感動を大切に、ツールや空間など、生地の魅力をさまざまな角度から入れる入り口づくりを通して、STUDIO Aは多くの人と繊維業界をつなげるプラットフォームづくりに乗り出しています。
個別のプロジェクトが同時多発的に進行中!
STUDIO Bでは、パートナー企業・ジャパンポリマーク社の圧着技術に着目し、さまざまな分野に応用する「ハイパーリンク」の可能性を探りながら、リサーチを進めていました。
ワークショップではジャパンポリマーク社の久保浩章社長もディスカッションに加わっていただきながら、圧着技術の可能性についてもさらに深掘りできたようです。
STUDIO Bではいくつかのプロジェクトに分かれて動いています。その一部をご紹介しましょう。
一つ目が「提灯(ちょうちん)」プロジェクト。福井のまちにおける景観の統一性や美意識を高めたいという想いから生まれたアイデアです。ジャパンポリマーク社の圧着技術を使い、地元の産業や文化とも結びついた、「繊維の提灯」をまちのなかに取り入れると、今まで以上に福井らしさが光る景観が生み出せるかもしれません。
もう1つが「2914649(フクイヨロシク)」プロジェクト。福井の郊外では電灯のない道路もあり、夜道を歩くのが怖い、というメンバーの話から着想を得たアイデアです。ジャパンポリマーク社の技術の1つ、「再帰性反射素材」のマーキングを使い、車のライトなどが当たることで光が反射し、安全性を高められるようなプロダクトを考えています。
例えば、まちなかで目にする「飛び出し注意の看板」。昼間は注意をひきますが、夜になるとまったく見えなくなってしまいます。こちらも再帰性反射の素材を貼りつけることで、ご覧の通り。
再帰性反射の素材は道路だけでなく、例えば田畑に立っている「かかし」に貼りつけたり、キャンプで夜テントのペグやロープに足を引っ掛けないようにしたりなど、さまざまな分野に活かすことができそうです。
STUDIO Bではこのほかにも複数のプロジェクトが進行中。まだまだ試作を続けていきます。
レースの「よさ」を引き出す地組織に着目
前回のワークショップで自分が「いいな」と感じた生地を持ち帰り、各自で実験を繰り返していたSTUDIO C。約1か月の間でそれぞれの実験から生まれたものが持ち込まれました。レースを取り入れた絵本やのれんのようなものやランプシェードのようなものまで、大小さまざまです。メンバーのデザインで、パートナー企業・荒川レース工業の荒川拓磨さんと職人さんが試作したオリジナルのレース生地も登場しました。
さらにどんなところにレースの「よさ」を感じるのか、メンバーたちの感覚や体験をtumblrに記録。すべて並べてみると、膨大なアーカイブとなっていました。
2回目のワークショップでは、再びパートナー企業・荒川レース工業の現場を見学。初回の見学では、レースの複雑な生産過程をにわかにとらえられなかったメンバーたちですが、それぞれがレースに向き合う1か月の経験を経たことでベースの知識もある程度でき、新たな気づきや学びを得ることができたようです。
そのなかで、STUDIO Cが着目したのは「地組織」という部分。本来はレースの柄と柄の間にある目立たない部分ですが、地組織があるからこそ、 “空気を編む”ようなレース独特の風合いや空間のあいまいさ、気配といったレースの「よさ」を引き出しているのではないかという考察が生まれました。
「地組織」という共通の「よさ」にふれたことで、1つの方向が定まったSTUDIO C。さらに「暮らしに寄り添うレースを増やしていきたい」という荒川レース工業の想いと地組織を組み合わせた新たなプロダクトも試作中です。
XSTUDIOも折り返し地点を過ぎ、各スタジオの進む道が少しずつ見えてきました。ここからまた最終ワークショップに向けて、どのようにアイデアが広がっていくのでしょうか。次回もどうぞお楽しみに!
text:石原藍 photo:片岡杏子