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非合理を選ぶ、合理性もある。地域をこえたプロジェクトから見えてきたこと 〜XSTUDIO 東京プレゼンテーション/ラウンドトーク〜
2019年1月27日(日)、東京ミッドタウン日比谷 BASEQで開催したXSTUDIO 東京プレゼンテーションは、メンバーや関係者を含めて200人以上が一堂に会す大盛況となりました!
XSTUDIOでは、約120日間、「繊維」をフィールドにスタジオメンバーたちがプロジェクトを生み出してきました。当日行われたラウンドトークでは、ゲストレビュアーの白水高広さん、若林恵さん、伊藤亜紗さん、そしてXSTUDIOのスタジオリーダー萩原俊矢さん、ローカルリーダーの新山直広さん、坂田守史さんが登壇。これからの地域との関わり方を問う、示唆に富んだトークの模様をお届けします。
司会:STUDIO A・B・Cのプレゼンテーションはいかがでしたか?
白水:産地と異業種の人たちとの出会いのきっかけや、それがどのように持続可能な活動になっていくのかに、興味を持ちました。たとえば、今回考えたアイデアからロイヤリティを得るなど、今後自分たちのアイデアを換金していく仕組みを考えると面白そうです。
今日、ここにこんなにも多くの人が集まっているのは、新しくチャレンジしたい人が多いことの表れ。福井で起きてることを、ほかの地方でもつくりだせるようにしたいと思いました。
若林:STUDIO Bでは「福井らしさ」の話が出ていましたが、福井と何の縁もない私からすると、みんなの熱意や福井をなんとかしたいという話は、いくら言われたところで、評価の対象にはならないんです。私はメディアの人間なので、例えばプロダクトに強度があるとか、価値があるものだと思えないと取り上げません。まずは価値があるものを追求することが大切。福井らしさは後からついてくるのではないかと話しました。
伊藤:STUDIO Cは、全体像をあえて把握せず、手をのばして探索する「アメーバ」のような性質を持ったグループ。問題解決をするデザイン的な考え方ではなく、逆に問題に出会ってってしまう、アート的な感じ。打率は高くないかもしれないけど、ぶっ飛んだものがふいに生まれる。言葉をあえて遠ざけることがいいなと思いました。
以前、視覚障がいのある方とスポーツを観戦する方法を探る研究会で、布を取り入れたことがありました。従来、目が見えない人には言葉で実況中継するのが一般的ですが、その競技の質感は伝えられない。そこで、柔道の試合では、選手の動きに合わせてスタッフ二人が手ぬぐいの両端を引っ張り合い、見えない人にその真ん中をさわってもらったんです。ものすごくローテクですが(笑)、“もう一つの試合”をつくることで、柔道ならではの力のせめぎあいを感じてもらいました。そんな経験上、言葉と対極の存在として繊維の可能性を感じていたので、STUDIO Cのプロジェクトは説得力がありましたね。
東京でできないことを地方で実現する
司会:スタジオメンバーはXSTUDIOの取り組みをどのように感じましたか?
新山(STUDIO A):今日発表したプロジェクトを今後実現へと進めていくには、覚悟が必要だと思いました。今、福井県鯖江にある事務所に店舗と観光案内所と漆器工房をつくっていますが、STUDIO Aの活動とリンクできないかと考えています。これまでの繊維産業に風穴を開けていけたら、産地にも自分たちにもプラスになりそうです。
萩原(STUDIO B):XSTUDIOは、仕事ではありません。この120日間、メンバーそれぞれがやってみたいことを棚卸して、プロジェクトを考えてきましたが、起点はあくまで自分たちの興味関心です。繊維と異分野との突拍子もないコラボレーションなど、個人的な関心はありますが、アパレル分野をはじめ、繊維に関心の近い人たちを巻き込むことも大事。今日のプレゼンテーションで、始めるより大変な、“継続すること”を考えるスイッチが入りました。
若林:もう東京で何かができなくなっていることの表れですよね。地方はこういう人たちを取り込まないと(笑)。
白水:XSTUDIOは、思い入れと仕事の間の状態。都会の人が地方に通っているうちに仕事の比率が増えて抜けられなくなっていく、ミイラ取りがミイラになる状態が地方にとっていいのかも(笑)。
若林:観光にフォーカスしすぎるのはよくないですね。仕事のほうが強制力があり、嫌でもその場所に行かなければならない。今日ここに参加しているみなさんは、自分たちが何を地方に求めるのかを考えてみてはいかがでしょうか。東京では物事が大きすぎたり、時間がかかりすぎる。何かインパクトを起こそうと思っても、基本埋もれてしまうんです。そう考えると、地方の方が手応えを感じやすいのかもしれません。地方側の人もチャンスですよ。東京でできないことを地方でできると期待して来る人がいるわけだから。お金の準備は難しくても、チャンスやスピードなら用意できるとか。そういうことが大事じゃないかな。
萩原:今はいくらでも遠隔で打ち合わせができる時代ですが、福井でちゃんとプロジェクトを動かす人たちも必要だと思っています。東京にいる僕たちが毎週通い続けることはできないので、福井で仲間を募る必要があるのかもしれません。
若林:優秀な人たちがここまで福井に足を突っ込んでるのだから、福井の人たちはここに通う理由をしっかり提供しないといけないですね。
新山:僕も大阪から福井に来てそのまま住んでしまう、まさにミイラ取りがミイラになったパターンです(笑)。過去2年のXSCHOOLがすごいのは、今でもその時のプロジェクトを動かしている人がいるということ。XSCHOOLやXSTUDIOに参加するような人材を地方側がどう生かすかが、大事だと思います。TSUGIでも、過去のXSCHOOLメンバーが働いてくれる予定です。
非合理な分野に、強みを見出す合理性
坂田(STUDIO C ):生粋の福井の人間は、ここでは実は私だけですね。仕事があるのも大事ですが、感情の部分も大事。合理的に考えると、大都市の方が仕事がいっぱいあるのに、結局は理屈ではない情動がほとばしって地方に来てるのかなと思います。そういう人が福井で新しい風を吹かせてくれる状態は大歓迎。逆に、そういう情熱ではなく、地方で何かやってやろうという人は、地域でハレーションを起こしてしまうと思うんです。
STUDIO Cのプロジェクトの進め方は、思考と行動が切り離される新鮮さを感じました。何かプロジェクトを起こす時に、普通なら先に情報を集めると思いますが、STUDIO Cではいきなりつくる。しかも、脳みそで思い描いた通りにつくるのではなく、手を動かしながら出合っていくようなやり方で。さきほどSTUDIO Cのプロジェクトは「アート的だ」という例えがありましたが、同時に私は「資本主義的ではない」とも思っていました。これと交換可能なものが、まだ無いなと。
白水:日本の繊維業界にも、「資本主義的ではない」部分があります。たとえば、日本でつくられる輸出用のカットソー素材には、マーケティング的にも左右されないような、すごく微妙な差にこだわってつくっている生地があります。海外では生産上、非効率だからあまり追求されない生地ですが、日本の職人さんは、こうした合理的でない部分をあえて強みにしている。このような方法は、今後STUDIO Cが意識すると良いと思いました。一見意味のなさそうなことから生まれてくるアプローチにこそ、都市ではできない強さがあるのかもしれません。
坂田:そうですね。値段がつけられないようなものを生み出してる気がします。言葉として伝わらなくても、その背景や感覚が伝わればいい。展示でも、もっとレースにさわって言葉を超えた何かを体感してほしいと思いました。
あらゆるものが「雑貨化」する危機感
若林:今考えた方がいいのは、あらゆるものが安易に「雑貨化」している問題。車や電車、建物であろうと、インスタ(instagram)におさまったら、全部雑貨になってしまう。本やレコードも、もはや雑貨的なものとして流通している。雑貨化した物には、もはや「消費」というチャネルしか残されていない。それは恐ろしい状況だなと思います。
地方の伝統文化や工芸にもそれが起こっています。東京のデザイナーが絡むと雑貨化するって構造、あるじゃないですか。デザインという論点が入ることにより、モノが一元化し、一緒の価値軸に並んでしまう。こういう安易な雑貨化と消費からどう外れるかを、まじめに考えないとといけない今、 STUDIO Cはアンチ・デザインで、すごくラディカルなプロジェクトだなと思いました。
白水:都市の人たちの能力やアイデアは享受した方がいいと思っていますが、バランスを取らないと、すぐに物事が雑貨化してしまう懸念はあります。都市の人、地方の人が互いに利用しあう戦略が必要ですね。うなぎの寝床の主力商品である久留米絣の「もんぺ」は、別に「パンツ」って呼んでも問題はありません。でも、「もんぺ」という売り方にすることで、文化や歴史も踏まえられる。現地の人たちが作り出すものを、調整して雑貨化させないのが、僕たちの大事な役割だと思っています。
すべてが可視化されつつある今、「無意識」の解放にヒントがある
伊藤:東京はすべてが可視化され、コントロールされていく感覚があります。リスクがないように、誰にでも説明できるようになっている部分が、逆に人を窮屈にしている。コントロールできない部分、つまりは無意識の部分にこそ、大事なこと隠れているような気がします。
たとえば、認知症の高齢者は、何かあっては危険! と、“リスクの塊”のように感じている人が多いです。でもある地方で高齢者の施設に行った時、施設長さんが、うちでは玄関は施錠しないんです、と言っていました。入居者さんが、外に出て行ってしまう危険があるかもしれない。そのリスクを自覚しながらも、「生きるとはリスクがあることなんだ」と受け入れていたのが印象的でした。コントロールしすぎないということ自覚的に選択しつつ、リスク込みで生きていくというのは、人間らしく生きること。地方の「自覚的に無意識的な感覚」に、妄想的に期待したいです。
白水:それは面白い視点ですね。僕は佐賀や福岡や大分に住んできましたが、無意識的な人が多すぎて(笑)。都市から見た地方、地方から見た都市、そこのイメージにはギャップがあるのかもしれません。
萩原:普段、私が専門としているウェブの仕事は、数字が求められる世界。なので、STUDIO Cの「ひたすら手を動かす」進め方は勇気があってすごいと思っていました。ものを作るには無意識やモヤモヤを感じることが不可欠なはずなのに、こうすれば「いいね!」が増えるメソッド化が、あらゆる部分で進んでいます。メソッドからこぼれ落ちる部分に認知が働かなくなっている状態は、自覚しないといけない。
新山:今は地方でもすぐに均一化されてしまいがち。都会の動きは僕も気になるので意識してしまい、時々「東京っぽいロゴつくっちゃったな」と思うことがあります(笑)。意識はするけど、均一化されない方法を考えることが大切。自分たちの勝ち方や生き方を増やしながら、地域のアイデンディティを醸成していかなければと思っています。
白水:やり方を決めずに議論することも大事。うちではゴールを決めずに議論し続けて、締め切りがきたら決める形をとっていますが、結果的にオリジナリティの高いアウトプットになると信じていています。大変ですけどね。
数値化できない「ときめき」について考えてみる
若林:例えば、最近アメリカで人気が高い整理整頓アドバイザーの『こんまり』(近藤麻理恵さん)。彼女は、家にあるモノは「ときめくものだけを残す」方法を取っていますが、それは納得できる考え方だと思っていて。物を買うとき、人は頭のなかで複雑な情報処理をしていますが、それを数値化することは難しいから、今まで詳しく触れられることがありませんでした。人による複雑な思考の解像度と市場経済的な部分は折り合うところがあるはず。単純に二項対立にせず、マーケットについてより理解を深めることが大事だと思います。
ここで、STUDIO Aリーダーの杉本雅明さんからもこんな質問が飛び出しました。
杉本:STUDIO Aのプロジェクトで布を数値化をしたことにより、気づいた点がありました。「食べログ」は点数がお店に行く行動を起こさせますが、点数がついてないお店はその候補にも上らない。繊維に関しては僕がまさにその状態で、地図がなかったから、興味を持ってこなかったんです。何も数値的な指標がないところから、どうやって購買につながるのでしょうか。
若林:たとえば、値段の高いブランドの服を持っているけど、本当はあまり着心地がよくなかったりする。でも、高い金を払ったからとか、いろんなバイアスがかかってその服を「好きだと思いたい」ってことありませんか? 気に入って買うとはどういうことなのか。自分自身に問いかけることで、購買に至る解像度を上げることはできると思うんですよね。
白水:今回面白かったのはSTUDIO AとCの対比。Aは理論から入ったプロジェクトだけど、最後は想いや感情の部分に落とし込んでいる。Cは感情と感覚から「よさ」を表現しているけど、ちゃんと社会に問いかけている。双方から行き来しながら物事をとらえる時代になってきたのかなと思いました。
司会:都市と地方、物事の雑貨化、感情、無意識……今回会場には、そこに問いかけようとする人たちが集まってくださっているのだと感じました。ありがとうございました!
(ラウンドトーク 終)
登壇者の話に会場全体が引き込まれたラウンドトーク。話題は尽きることなく、時間いっぱいまで白熱したトークが繰り広げられました。スタジオメンバーたちが得た気づきや発見は、2月9日に迫った福井でのプレゼンテーションで生かされることでしょう。
福井から何を生み出し、何を発信していくのか。XSTUDIOのこれからにつながる、大きなヒントに溢れた時間でした。
text:石原藍 photo:片岡杏子