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まちにひらかれた学びの場! 「XSESSIONS」開催レポート
2022年3月5-6日の2日間に渡り、JR福井駅周辺を舞台に多数のトークセッションを同時開催した「XSESSIONS」。3会場で行われた全21セッションでは、さまざまな分野で活躍するゲストスピーカーとの対話を通して、これからの多様な暮らしや仕事、まちの姿をともに考える機会となりました。
XSESSIONSではJR福井駅周辺にある「XSTAND」「未来Lab.」「クマゴローカフェ」の3つのスぺ―スが会場に。それぞれの場所でジャンルの異なるトークセッションが同時進行し、全員が各会場よりオンラインで参加する共通セッションも行われました。
参加者はセッションの内容を確認しながら、行きたい会場へと足を運びます。それぞれの会場は徒歩5分圏内に位置するため、駅周辺ではプログラムを片手にたくさんの参加者が会場から会場へと連れ立って移動する様子も見られました。
さまざまな場所で、まさに同時多発的に行われた学びの場。「あの人の話も聞いてみたい」「こっちの会場も気になる」…と悩みながら参加するセッションを選んだ方も多かったのではないでしょうか。今回はダイジェストで2日間の様子をご紹介します!
1日目:さまざまなジャンルで活動する9名のスピーカーが登場!
まずは1日目に行われた9名によるトークセッションをご紹介します。
▲福井県若狭町の伝統的建造物群保存地区・熊川宿で古民家を活かした宿泊事業や体験、農産品の開発などを手がける(株)デキタの時岡壮太さん。地域ブランドを育てるための事業の多角化や地域資源の発見など、地域の文化と経済のあり方について語っていただきました。時岡さんが運営する拠点「八百熊川」の活動は2021年度「ふるさと名品オブザイヤー」の『地方創生賞(コト部門)』も受賞!おめでとうございます!
▲「未来Lab.」会場のファーストセッションを飾っていただいたのは、野田恭平さん。元杜氏、バーのオーナー、フォトグラファーと、さまざまな肩書を持ち、自身のことを「肩書き迷子」だと語ります。アイデンティティであり、時に縛られることもある肩書き。「肩書きは他者が決めていい。自分が考える自分と他の人から見え方のずれをどうチューニングするかも面白い」という野田さんの話に参加者も興味深く聞き入っていました。
▲「クマゴローカフェ」会場では、越前海岸に移り住んだ志野製塩所の志野佑介さんが登壇。海と山が近い環境で活動したいと移住を決め、米や野菜づくり、林業などを手がけ、2020年から塩づくりもスタートしています。今では果樹栽培、ヤギ園、ワカメやサザエ、アワビを採る海人など、地域の資源を生かして様々なことにチャレンジしているそう。志野さんの生き方は、まさに越前海岸の「百姓」。思わず豊かな気持ちになれるセッションでした。
▲「絹織物」に特化した生地の企画や販売を行う荒井(株)の荒井章宏さん。福井の基幹産業といえば「繊維」。これまで接点のなかった県内の繊維企業が集いスタートした「MADE BY」という取り組みについて紹介していただきました。県外デザイナーや繊維業界関係者とともにさまざまな繊維産業の可能性について模索しています。「福井のものづくりのポテンシャルは高い」と語る荒井さん。繊維業界のこれからが楽しみです!
▲越前市のフレンチレストラン「MarPe」のシェフでもあり、トレイルランナーでもある谷橋洋平さんは、年間300回以上は山に入ります。これまで飲食業に15年以上かかわるなかで「自分らしい料理」とは何かを考え続けてきたそう。山で見つけた天然の山菜やきのこ、花、実、動物。風や土や水まで五感で自然を感じ、地域の食材にこだわった「ここでしか出せない」料理を追求し続けています。
▲福井駅前を中心に、長年まちや人の変化を見守り続けてきた、まちづくり福井(株)の岩崎正夫さん。北陸新幹線の福井駅開業を約2年後に控え、再開発やリノベーションを通してまちの様相が変化する中、福井の良さを活かしたまちづくりについて岩崎さんの構想をお話いただきました。人とまちとの関わりシロを増やすために必要なのは「まちと学び合う場」と語る岩崎さん。意見交換も白熱していました!
▲福井県を代表するサッカークラブ「福井ユナイテッドFC」を運営する福井ユナイテッド(株)の服部順一さんはオンラインで登壇。日本フットボールリーグ(JFL)昇格を目指しながらも地域の課題解決を存在意義とし、県内各所でこどもたちのサッカー指導やボール遊びなど積極的に行い、地域に愛されるクラブ運営を行っています。競技の枠を越えた知られざる草の根活動を紹介いただき、「応援したい!」と思った人も多かったのではないでしょうか。
▲鹿児島出身の米村智裕さんは、大学で声楽、大学院で経営学を学び、ベンチャーキャピタルで働いてきた異色の経歴の持ち主。福井県出身の奥様との縁で福井に移り住んだことをきっかけに自分たちの手で衣食住に取り組むこと、教育と芸術に向き合うことにチャレンジしています。池田町で出会った古民家を舞台に、子どもたちが自然の中で探求し創造性を高めていく「うみのいえ」プロジェクトについて語っていただきました。
▲福井・東京・上海と国内外の地域を行き来しながら、商業施設の企画設計、家具建材の商品企画などを行う高岡勇治さん。浜町の「クラフトブリッジ」の運営や福井中心部の物件のリノベーションも手がけています。(2022年3月には福井市順化にシェアオフィス「LUFF」がオープン!)「地域のポテンシャルはどこにでもある!」と言いつつも、地域をまたいで活動するからこそあらためて見えてくる福井のポテンシャルについて語っていただきました。
多岐陽介さんが語る「想像力」の大切さとは
XSESSIONS 1日目の最後はゲストスピーカーとして、演出家・批評家・アーティストの多木陽介さんに登壇いただきました。なんと、イタリア・ローマからのオンラインセッションです!(現地は朝だったそう。)
多木さんからは、デザインや食、伝統工芸など、さまざまな事例を通して「想像力」の大切さについて語っていただきました。
高度に発展した資本主義社会では、文明が発展していく「進歩」に重きを置きがちですが、実は物事の原点や存在意義に立ち返る「退行」の力が大切と語る多木さん。現代の自然、社会、精神環境を脅かす最大の原因は、ただ前へと先に進むことしか知らない現代文明の性質にあるのかもしれません。
「進歩」だけでなく、立ち止まって問いかける「退行」という2方向のベクトルを備えた創造力をもとに、自分がいる世界を理解することの大切さを教えていただきました。
2日目:建築家・西村浩さんのゲストトークからスタート
XSESSIONS 2日目はゲストスピーカー・建築家の西村浩さんのセッションからスタート。西村さんは、東京と佐賀を中心に全国各地の都市再生戦略の立案にも取り組んでいます。
「空きはポテンシャル!」と語る西村さんが実践してきたのは、空き物件を活かし、まちの人気を上げること。10年以上にわたる佐賀呉服元町のまちづくりについてお話いただきました。
建築家の枠を超えた西村さんのさまざまな取り組みに、会場も大盛り上がり! 現在、再開発まっただ中の福井駅前にも活かせそうなお話をたくさん伺うことができました。
会場は満員御礼!2日目も盛り上がるトークセッション
前日とはうって変わり肌寒くなった2日目。しかし、満員御礼の会場も出るほど参加者のボルテージは朝から最高潮でした。
▲満員御礼の会場で語るのは(株)akeruの大連さん。「新しい働き方をつくる」をテーマに、異なるバックグラウンドを持つ人が、自分らしく生きることや、やりたいことを選んで自由に働ける環境や仕組みに取り組んでいます。さまざま葛藤を乗り越え、今では「福井から出たことがない」を自分の武器にしている大連さん。働く場所ややりたいことなどを自由に選べる、自分を起点にした働き方に行き着くまでのストーリーを語っていただきました。
▲トーク会場でもある「クマゴローカフェ」で毎週水曜にランチを提供しているオテシオの倉橋藍さん。旬や行事を取り入れ、福井の食材を活用したメニュー開発や監修なども手掛けています。オテシオのランチで大切にしているのは「物事を人任せにしないこと」「時間や量力をおしまないこと」「愛情をかけること」だという倉橋さん。料理を通して感じる福井の食の可能性や楽しみ方についても語っていただきました。
▲福井市役所施設活用推進課に所属する永井宏昌さん。市役所の一角に職員さんが自由に使えるコワークスペースをつくったり、公園でタープを広げて市役所の会議をしたりと、市の公共空間でワクワクするような楽しみ方を実践しています。市役所が街の活動にはみだすことで、市民との距離がもっと縮まりそう! 福井のまちでできることが増えていきそうな、可能性を感じるトークでした。
▲XSTANDでは福井県職員でありながら、市街地中心部にあるホテルの巨大な壁面をスクリーンにし、まちのど真ん中の広場に巨大映画館を作ってしまった前田健児さんの取り組みについてお話いただきました。「公共の空間で映画館!?」あったらいいけど、実際にやるのは難しそう…。ほとんどの方が諦めてしまいがちなことも形にしてしまう前田さんの行動力の原点についても語っていただきました。
▲福井県大野市からはホステル「荒島旅舎」の運営を行う(合)越前おおの荒島社の桑原圭さんに登壇いただきました。荒島旅舎はすぐ近くに昔ながらの商店街があり、半径500mくらいのエリアでも十分に歩いて楽しめるそう。旅舎は「商店街と人がつながるきっかけを広げる場所」だと語る桑原さん。2020年にオープンして以来、多様な人が訪れることでまちに起きたさまざまな変化について語っていただきました。
▲「自分でつくる、自分で直す」ことの可能性について語っていただいたのは、黒田悠生さん。黒田さんは2019年のXSCHOOL受講生。昨年起業し、誰もがものづくりを楽しめる拠点「トンカンテラス」の本格稼働に向けて動き出しています。黒田さんを突き動かしているのは「ものづくり好きを増やしたい」という思い。トンカンテラスに多くの人が集い、思い思いにものづくりが楽しめる風景が生まれると、福井のまちがもっと彩り豊かになりそうです!
▲XSTANDでは新栄リビングの中上久範さんにお話いただきました。福井駅からもほど近い新栄商店街。もともと駐車場となっていた商店街の中心部分の場所を、中上さんは思い切ってテラスにし、街中でありながらアウトドア空間を楽しめる取り組みを行なっています。ご自身に肩書きをつけるなら「まちの用務員」だと語る中上さん。どんな人でもやさしく受け入れてくれる、そんな"余白"の部分にこそ、未来のまちの可能性を感じました。
▲「未来Lab.」会場の一画に並べられたカラフルなプレートやキーホルダー、サングラス…なんとこれらはすべて若狭の海に漂着したペットボトルから生まれたものだというから驚きです。若狭湾の海ゴミ調査やビーチクリーン活動を通して、漂着したペットボトルからメガネをつくるアップサイクルプロジェクトに取組むアノミアーナの西野ひかるさん。活動のきっかけや若狭の自然に対する思いをお話いただきました。
▲冬の越前海岸に咲き誇る越前水仙の文化的景観を守りながら、水仙のブーケの販売や水仙畑の整備などを通して地域に新しいなりわいを生み出している「ノカテ」。XSCHOOLから誕生したこのプロジェクトチームは、県内外のメンバーが福井に集まりながら、それぞれの職能を活かしているのも特徴的です。活動の裏側や、ノカテで大切にしている思いをメンバーの高野麻美さんと田中宏幸さんに語っていただきました。
紫牟田 伸子さんが語る「シビックプライド」の育み方
XSESSIONS、最後のゲストスピーカーは編集家であり、デザインプロデューサー、ジャーナリストなどさまざまな肩書きを持つ紫牟田 伸子(しむた のぶこ)さん。実は福井とはゆかりがあり、2005年に福井市で行われた「おいしいキッチンプロジェクト」ではクリエイティブディレクターとして関わった経歴も。
2日間行われたさまざまなセッションの内容をふりかえりながら、都市と人との関わりやつながりをあらためて解釈し直すことの大切さや「シビックプライド(街に対して抱く、個人個人の自負の感情)」の育み方について語っていただきました。
2日間にわたり21名のスピーカーをお招きしたXSESSIONSは、盛況のうちに幕を閉じました。トークを通じて一人ひとりの実践や活動が未来のまちの姿につながることをあらためて実感した方も多かったのではないでしょうか。各会場のあちこちで、スピーカーと参加者との新たなつながりが生まれていたのも印象的でした。
次回、また新たな姿でみなさんにお目にかかるのを楽しみにしています!