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XSCHOOL2018

XSCHOOL2018 前編 〜広義のデザインの力を、ともに考える2日間〜

福井を舞台に、新たな事業やプロジェクトの種を生み出す小さな教室、XSCHOOL。2016年から始まったこの事業では、福井市内のパートナー企業と全国から集まった専門性の異なる受講生たちが、福井の文化や産業を紐ときながら、さまざまなプロジェクトを生み出してきました。

3期目となる今年は、「ともに学ぶXSCHOOL」と、「ともにつくるXSTUDIO」という二つの枠組みでプログラムを再編。今回は、「広義のデザイン」を考えるXSCHOOLの濃密な2日間をご紹介します!

学生や経営者、主婦など多様な参加者たち

2018年9月1日、会場となった福井市のアオッサには、続々と受講生が到着。学生や福井県内で企業を営む経営者、デザイナー、会社員、子育て中の主婦など、総勢90名が集いました。

今期のXSCHOOLは、2日間にわたるレクチャーやワークショップ、トークセッションを通して、さまざまなバックグラウンドを持つ方々と「広義のデザイン」をともに考えるスクール形式のプログラム。どんなことが行われるのだろうと、みなさん少し緊張した様子です。

各テーブルでは、隣同士はじめましてとご挨拶している人たちも。

XSCHOOLのプログラムに興味がある、福井が気になる、“地域Xデザイン”の取り組みを学びたいなど、受講生の動機はさまざま。

いよいよ、XSCHOOLの開講です!

まずはプログラムディレクター・多田智美さんによるエクササイズ。

“なぜあなたは今ここにいるのですか?”

その理由を黙々とに書き綴っていきます。

箇条書きでも文章でも、とにかく読み返さずにどんどん書く。

本当の理由が出てくるまで、止めずにどんどん書いていく……。

はじめはペンがなかなか進まなかった受講生も、書き始めるとひたすら手が動くように。カリカリカリカリ……とペンの音だけが響きます。

一つの問いに向かい、書き続けるという、いつもとは違う脳の使い方をして、少し頭の体操になった受講生のみなさん。

デザイナー・原田祐馬さんと考える「デザインはどこからはじまるの?」 

そしてXSCHOOL本編がスタート。2日間にわたり行われる9つのセッションは、情報や技術をただ伝えるのではなくて、掲げられた「問い」を登壇者がリードしながら、会場みんなで考える双方向的な学びの場となりそうです。

最初のセッションで投げかけられる問いは「デザインはどこからはじまるの?」。

ともに考える人は、プログラムディレクターでデザイナーの原田祐馬さんです。ますます領域を広げる「デザイン」という言葉。日本各地で「ともに考え、ともにつくる」プロジェクトを実践する原田さんと一緒に、次代のデザインに求められることを考えます。

▲「みなさん、ここから地獄の始まりですよ」と、XSCHOOL恒例のセリフで会場を沸かせる原田さん。

まずはみなさんもよくご存知の炭酸飲料の写真がスクリーンに映し出されました。
最初のワークショップは、この「炭酸飲料」にまつわる記憶を引き出すというもの。

「炭酸飲料味のラムネやガムを買っていた」「カルピスと混ぜて飲んだことがある」など、みなさんさまざまなエピソードがあるようです。

「炭酸飲料」のデザインは一つですが、そのデザインにまつわる記憶は千差万別。「デザインは誰かの記憶を作る可能性がある」。これからデザインを考えるうえでの大前提を、自らの経験を通して脳に落とし込んでいきました。

そもそもデザインとは一体どんな役割があるのでしょうか?

あるものを魅力的にしたり、バラバラなパーツを一つにみせたり、バランスを考えたり、媒介になったり、今までと違う関係性をつくってみたり……デザインにはさまざまな役割があると、原田さんは語ります。

さらに自身が感銘を受けたという「PROGETTAZIONE」というイタリア語を紹介。イタリアで「デザインという言葉が定着する前に使われていたそうで英語に翻訳すると「PROJECT」この言葉の語源には「PRO=前に」「JECT=投げかける」という意味があります。

見た目の良さだけではなく、社会やターゲットに届く方法を考える、常に“前に投げかける存在”であることがデザイナーには求められているのかもしれません」と原田さん。

ほかにも、一見まったく共通点のない2つの物事の関係性を考えたり、福井のシェアサイクル事情についてアイデアを出し合ったりなど各テーブルでさまざまな議論が生まれていました

都市デザイナー・内田友紀さんと考える「イノベーションが起きる都市とは?」

次のセッションでは、プログラムディレクター・内田友紀さんと「イノベーティブな都市ってどんなところ?」というテーマについて考えていきました。

▲福井市出身でもある内田さん


内田さんは都市デザイナーとして、これまで国内外の都市を訪れ、創造的なまちや人のあり方や都市計画を見つめてきました。

イタリアの大学院でサステナブルシティデザインを専攻しながら、チリ、ベトナム、ブラジルなど海外の都市に滞在し、そのまちの課題や可能性について、毎晩まちの人たちと議論した経験も。

うまくコミュニケーションが取れないこともあったそうですが、一緒に未来を描く仲間として接しているうちに、まちの人たちの眼差しが変わっていったというエピソードも登場しました。

▲「そこに住む・関わる個人や組織が、自律的に暮らしや仕事を創造し、街を変えてゆくことこそ、イノベーティブな都市の姿ではないでしょうか」と内田さん。

さらに、イノベーティブな都市を動かす3つの要素についても話が及びました。

1つ目は、社会。
経済や物理的価値のみならず、社会全体(エネルギー・環境・食・住宅など)の持続可能性を見据えること。

2つ目は、市民。
行政・企業・住民、全てのセクターが役割を超えて連携すること。災害が多い今年、日本各地の人たちが、普段自分たちの暮らしを支えているものが突然なくなる怖さと、コミュニティ単位で自立する力を蓄える必要性を感じているかもしれません。

 

3つ目は、実験。
予測可能な時代は過ぎ、複雑さが増した社会のなかでは、行政も民間も積極的に実験しながら未来を構築することが大事です。


そのような3つのイノベーション・エンジンがユニークに発揮されている例として、バルセロナの都市を複雑な生態系として捉える、その名も「バルセロナ都市生態学庁」の取り組みや、日本・ヨーロッパの複数の事例が紹介されました。

最後は会場全体で、

「イノベーティブな街とは?」

「あなたが思うイノベーティブな街はどこ?そこでは何が起きている?」

「自分の街or関わっている街では何がしたい?」

と考えながら、社会の大きな動きから、自分たちが暮らす足元のまちのことを考えていきました。

一人ひとりが今の役割や働き方を超えたときこそ、社会に新しいインパクトを起こすきっかけになる」と語る内田さん。いち住民、いち行政、いち会社員としての立場をはみだすと、自分たちが暮らすまちの景色も、今までとは少し違って見えるかもしれません。

編集者・多田智美さんと考える「紡ぐ、伝わる。編集の見方と伝え方って?」

3つ目のセッションで登壇したのは編集者の多田智美さん。物事の魅力や価値と出会い、それらを紡ぐことで、新たな物語を生み出し、伝えていく「編集」的なものの見方とは? ワークショップを通じて、人を動かす伝え方、届け方を考えていきます。

編集の役割は、さまざまなメディアを通して、「目には見えない”価値”を伝えること」だと語る多田さん。個人的背景や社会的背景、地理的条件や環境、言語化されていない価値を最適なメディアで伝えることを大切に、その行為を「夜空の星を結んで星座を名ける作業」だと例えました。

「編集」は編集者のみに限られた特殊な能力ではなく、誰もが日々自然と行っていることなのだと語ります。冷蔵庫にあるもので料理をつくったり、手持ちのワードロープから衣装を選んだり、そういう日常の行為も編集の一つだそう。無意識のうちに実践している編集行為に、少し目を向けてみてはいかがでしょうか?と多田さん。

また、編集的思考に必要な3つの力として、「見る力や見つける力」「つなげる力」、伝える・言葉にする力」を紹介。

その編集的思考の出発点である「見る力」を鍛える経験のためにワークショップとして、受講者に配られたのは、白い紙の束。この白い紙と、10分間ひたすら向き合うという、ブルーノ・ムナーリさんのメソッドを応用したちょっと変わったワークショップを行いました。

曲げたり、破ったり、じゃばらにしたり、破ったり、輪っかを作ったり、何個も立ててみたり、光を当てたり、こすったり、積み上げたり、飛ばしたり、上から落としてみたり……。

見ているだけでは気がつかない、手を動かすことで素材の新たな特徴に気づくこともあります。

受講生のなかにはどれくらい小さくなるか、ひたすら折り続けた人や、5分間紙を揉み続けた人も。

▲紙を揉み続けたら、ご覧の通り一回り小さくなりました。テクスチャーが変わり、まるでティッシュのよう。

この紙の束は、実は普段何気なく使っている、A4のコピー用紙でした。しかし、あらためて向き合うことで、今までと違った発見ができた、という方も多かったのではないでしょうか。

後半は、多田さんがこれまで手がけてきた奈良のフリーペーパー「Good Morning Nara」や福岡県・福智町の図書館「ふくちのち」などの事例を紹介。

「伝えたい」と「伝わる」の隙間を意識したコンテンツの考え方や、多くの人たちを巻き込みともに考え、ともにつくる仕組みについて話していただきました。

2人のデザイナー・高橋孝治さん、新山直広さんと考える「インタウンデザイナーのしごとって?」

1日目、最後のセッションは愛知県常滑市を拠点に活動を展開する高橋孝治さんと、福井県鯖江市河和田を拠点とする新山直広さんという、2人のデザイナーの対談を通じて、デザインと地域のこれからを考えます。

▲左:高橋孝治さん 右:新山直広さん

「インタウンデザイナー」とは、実は新山さんがつくった造語で、特定の地域に特化して活動するデザイナーのこと。お二人ともまちの暮らしや産業に長い時間軸で寄り添いながら、さまざまな活動をかたちにしています。

新山さんはめがねで有名な福井県鯖江市のなかでも、約1500年の歴史を持つ越前漆器の産地・河和田に移住し、TSUGIというデザイン会社を立ち上げ、「創造的な産地をつくる」をテーマに、地域のつくり手を支えながら、自分たちでつくり、売るところまでを実践しています。

独自のアクセサリーブランドを立ち上げ、北陸の地場産品を販売する「sava store」を全国各地で開催。さらに新山さんらが発起人として2016年から開催している河和田の工房開きイベント「RENEW」は、今や北陸を代表する産地イベントの一つとして成長しました。

「地域の原石を可視化する力、仲間を増やしながら目指す未来に向かって進んでいく巻き込み力がインタウンデザイナーには必要だ」と、新山さんは語ります。


一方、XSCHOOL1期・2期の講師を務めていた高橋さんは、11年間「無印良品」のインハウス(企業内)デザイナーとして、これまでさまざまなプロダクトを世に送り出してきました。

しかし、つくったものがモデルチェンジになり姿を消してしまうサイクルや、使い手の存在が置いてきぼりになっている現状に立ち止まった時期もあったそう。

「くらしの備え、いつものもしも。」という防災プロジェクトや、神戸市民が残したい文化や風土を探し出すプロジェクト「Found MUJI 神戸」など、プロダクトデザイナーの枠を超えた取り組みを形にするなかで、自分がやりたいものづくりを実践しようと、2015年に常滑焼で有名な愛知県常滑市に移住しました。

現在は、越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前という6つの焼き物産地をつなぐ、六古窯日本遺産活用協議会クリエイティブディレクターとしても活動。1000年にわたり各産地で育まれてきた技術・文化を掘り下げ、発信しています。


後半は原田さんが
モデレーターとなり、3人でトークを進めていきました。

チームをつくって新しい動きを起こしている新山さんと、個人で産地のものづくりと向き合いながら、さまざまなプロジェクトを起こしている高橋さん。それぞれの動きの違いについて、原田さんが問いかけていきます。

新山さん
「河和田に移住した最初の4年間は、僕は自分の意見を言わず、ひたすら聞き役に徹していそれは僕が移住者第1号だったこともあり、これから仲間を増やすためにも必要なことだと考えていました。今では河和田のまちにも厚みが出てきて、多様な人が増えてきましたね。パン屋をやりたいって訪ねてきた人もいるんですよ」

高橋さん
「産地で自分はどうありたいのか。その態度をきちんと表明することは大事だなと痛感しています。今まで距離を取ってた人も、こちらのスタンスがわかればちゃんと話を聞いてくれる。常滑市に住まいを移して3年目、今は仲間探しの時期なんだろうなと思っています」

ほかにも、

「デザイナーではない人が、デザインの文脈で一歩踏み出すには?」

「インタウンをまちレベルではなく、日本全体の枠組みで考えた方がいいのでは?」

「どんなタイプのデザイナーがまちに来てほしい?」

など、受講生から興味深い質問が続きました。

みなさんからの質問は尽きませんが、盛りだくさんのXSCHOOL・長い1日目が終了です。

夜は受講生みんなが集まり、親睦を深めました。

▲かんぱーい!

あちらこちらで会話が生まれ、みなさんとても楽しそう!

しかしXSCHOOLは明日も朝から行われるので、どうかお酒はほどほどに……。

後編に続きます。

text:石原藍 photo:片岡杏子

 


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