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XSCHOOL2020

わたしたちの「問い」へ【第3回&第4回XSCHOOL】

前回のワークショップから、それぞれの「問い」の輪郭を少しずつ捉えはじめた受講生たち。チャットツールやポッドキャストで思考を交わし合い、リサーチを続けてきたことで、その輪郭はどこまではっきりと浮かび上がってきたでしょうか。そして、これからカンファレンスまでの間で、私の「問い」をわたしたちの「問い」へと近づけることができるのでしょうか。

今回は、XSCHOOL第3回と第4回をまとめてレポートしていきます。

「問い」のアップデートを目指して。第3回XSCHOOL

2021年1月30、31日に行われた3回目のワークショップ。冒頭、プログラムディレクターの内田友紀さんが今年度のプログラムの全体像と現在地を改めて整理していきます。

「私たちはいま『問いの生成』というフェーズにいて今回(3回目)は『問いのアップデート』というところまでたどり着きたい。そして、問いを立てることで浮かび上がってくるたくさんのアイディアを絞り込んでリアライズしていく、というのが次のフェーズです」と内田さん。

さらに、この旅路を歩んでいくなかで、「『医療とわたしのほぐし方』に対する『問い』のドキュメント化」と、「医療とわたしをほぐしていくプロジェクト」というふたつのアウトプットを目指していくことも確認。改めて、今期のプログラムの目標を明確にしました。

仮説から生まれる新たな「問い」とアイデア

続いては、同じくプログラムディレクターの多田智美さんから「仮説の立て方」のレクチャー&エクササイズ。

自らの立てた「問い」について調べを進めることで浮かんでくるさまざまな仮説。その検証のためのアクションと、結果の分析・考察を行っていくことで、さらなる「問い」が立ち、それらをぐるぐると続けていくなかで、新しいアイデアも生まれてくるといいます。

「仮説を立てる」という行為自体が、「問い」をより深いものにしていくんですね。

また、仮説を立てる際には、物事のどこを見るかという「視点」、どの範囲について見るのかという「視野」、どこ(位置や立場、時間軸など)から見るかという「視座」など、物事を多角的に捉えて考えてみることも大切。

レクチャーの内容を体感してみるために、「仮説を立てるトレーニング」もやってみました。お題は、「あんなに昭和なサザエさんが、平成、令和を超えて、放送されている理由は?」

受講生からは「昭和の大家族のアットホーム感を潜在的に視聴者が求めているから」という意見や、「令和の多様な暮らしを描こうとすると、批判が耐えなさそうだから」「テレビ局的に失敗しないコンテンツだから」などのコメントが寄せられ、ひとつの対象に、さまざまな視点からアプローチしていくよい準備体操となりました。

今回のテーマにも含まれる「医療」は、まさに視点・視野・視座の切り替えを意識しながら向き合う必要のある領域。「問い」のアップデートを目指すうえでとても重要な視点を意識づけできたレクチャー&エクササイズとなりました。

思考を深め、視座を養うチームアップ

第3回ワークショップでの大きな動きとして、互いの「問い」を重ねながらともに思考を深め、プロジェクトの実現プロセスを歩んでいけそうな仲間とのチームアップを試みました。必ずしもチームを組む必要はありませんが、それぞれの「問い」がみえてきたこの段階で、より多くの視座を得ながら考えを深めていけるひとつの機会となります。チームメンバーを募集したいという4名の受講生からのプレゼンや、今後の進め方の個別相談の時間を経て、この場では下図のような構成となりました。

無事チームとしての仲間をつくることができたメンバーもいれば、これまで通り個別に「問い」を深めていくメンバー、そして、いくつかのチームを横断しながら自分の「問い」に向き合っていくような立ち回りになるメンバーも。最終的にこの構成とは異なる形でアウトプットが行われることになりましたが、少なくともそれぞれの「問い」の性質が明確になった瞬間だったと思います。

肩書きを置いて、ここに必要なものは何かを考えてみる

チームアップを終え、さらなる「問い」のアップデートへと差し掛かる受講生に対し、プログラムディレクターの原田祐馬さんから、ここでもう一点レクチャーが入ります。

原田さんが紹介してくれたのは、自身が携わった児童養護施設でのプロジェクトについてでした。

普段はグラフィックデザインを仕事にすることが多い原田さんに対して、その児童養護施設から伝えられたのは「壁紙を選んでほしい」というものでした。詳しく聞けば、新しくできる一時保護施設があり、そこに保護された子どもたちが過ごすことになる空間をデザインしてほしいとの依頼。そこで原田さんが考えたのは、まずは小さな色を発見できる空間をつくること。そして、自分たちが暮らす空間が出来上がるプロセス自体も楽しんで一緒につくっていくということ。

▲陽だまりの色の変化を楽しむ飛散防止フィルムの色彩デザイン

 

▲家具作りワークショップの様子

 

家具も子どもたちに選んでもらい、デザイナーのレクチャーのもとで一緒に組み立て作業も行う。作業を楽しむことで空間に愛着を持ってもらうことはもちろん、家具を選び組み立てるという体験自体が子どもたちのその後の暮らしを自分でつくっていくことにつながる。

そんな思いを形にした、年度末の怒涛の3週間の出来事だったそうです(笑)。

「ぼくがグラフィックデザイナーだからといって、ポスターやロゴだけをつくる必要はないんです。いまここに何が必要かを考えるのが、そこにいる人の役割。いざプロジェクトが立ちあがったとき、自分の専門性はこうだからと決めつけずに、こんなことがやりたい、あの人を呼べば実現できる、と、ちゃんとその状況を楽しんでみると、自然と仲間が助けてくれると思います」。

 

今回のXSCHOOLにおいても、自分がいま考えている「問い」に対して何ができるのかを、肩書きや専門性を一旦横において考えてみること。それが大切なのかもしれません。

新たな気づきを得て、2020年度のXSCHOOLもいよいよ最終回へと向かいます。

ともに「問い」に向き合ってもらうために。第4回XSCHOOL

2021年2月11日、第3回から2週間も経たないうちにやってきた、最後のXSCHOOL。

祝日に開催された1日だけのワークショップは、カンファレンスを控えた受講生にとってはいささか心もとない時間だったかもしれません。「ドキドキしますね」「不安になってきました」と、当日のチャットにも受講生の正直な気持ちがあふれていました。

それでも、これまで繰り返しおこなってきたポッドキャストでのアウトプットや、ワークショップ内で続けてきたチームや仲間とのディスカッション、ディレクター陣とのメンタリングを通して、「問い」は精度をあげ、その根底にある自身の思いについても整理が進んだように思います。

この日は、チームや個人に分かれての個別相談と全体共有を繰り返し、「問い」そのものの質も含めて、自分たちの思考がここに至ったプロセスやその「問い」に向き合った先に生まれる未来にどう思いを馳せてもらえるか、言い換えれば、どういう「問い」やアウトプットであれば自分たちが考えてきたことをより正確に伝えることができるのかという部分の研ぎ直しに注力。

カンファレンス本番と、カンファレンスまでにつくりあげるコンテンツの制作に向けて、受講生の背中を押すような、そんな1日となりました。

XSCHOOL2020受講生紹介

今期の受講生の面々と、それぞれの「問い」について簡単にご紹介。

※それぞれの「問い」にはパーソナルな情報も含まれるため、詳細はカンファレンス申し込み者のみの限定公開とさせていただきます。

▲山岡宏輔さん(XSCHOOL2016参加者)

自身のある体験をベースに、「隠す」「装う」「隠さない」という言葉の間に健やかな生活を営むヒントがあるのではないかと問い続け、展覧会の実施を着想。カンファレンス当日も登壇。

▲田嶋宏行さん(XSTUDIO2018参加者)

「遊び」と「医療」という二つの概念が、どうすれば境界を感じることなく自然と重なっていくかという問いを軸にして、子どものためのアソビバづくりを着想。カンファレンスには「team アソビバ」として登壇。

▲黒田悠生さん(XSCHOOL2019参加者)

自身が参加した昨年度のXSCHOOLで立ち上げた「TONKAN TERRACE」の在り方を問いの軸として、場づくりという観点からチームに合流。カンファレンスには「team アソビバ」として登壇。

▲岡部春香さん

医療との関わりのなかで、いかに患者のエンパワーメントを高めていけるかという問いを軸に、「場」そのものがもつエンパワーメントの可能性を感じてチームに合流。カンファレンスには「team アソビバ」として登壇。

▲神野真実さん

「健康」に対する人々の視座の違いが生む違和感を問いの根底にもち、紆余曲折を経て、人々の老/病/死に対する姿勢(スタンス)を共有するプロダクトを着想しました。カンファレンスに登壇。

▲木村希さん

「生きたい」という気持ちの根源はどこにあるのか?という問いを立て、日常の中にある“しんどさ”を表出させていくことからアプローチ。

▲井上猛さん

難病をもつ家族に起こったとある出来事を起点に、家族間コミュニケーションの円滑化を問いの軸にして、悩み、走り続けました。

▲兒玉真太郎さん

地理的な視点での興味関心から、人が集まる場のつくり方やつくられ方を問いの軸にした、しっかりと地域にフォーカスしたリサーチを進めてきました。

▲近藤小百合さん

「一人」や「孤独」というキーワードを問いの起点とし、「孤独収集家」として孤独の種類や健康との関係性について検証中。

▲BIE Qian(ベツ セン)さん

子どもの在宅医療に興味関心をもちながら、医療現場における患者と医師のコミュニケーションギャップを問いの軸としていきました。

▲増永英尚さん(オレンジホームケアクリニック)

クリニックの広報担当として医療現場に関わってきた自身の体験から、医者と患者の「本音」を巡り大きな問いを投げかけます。カンファレンスに登壇予定。

▲木村侑翔さん(日華化学株式会社)

専門性を持つ人とそうでない人の間にある伝えにくさ/伝わりにくさを問いの軸に、患者が「ありたい姿」を伝えられるコミュニケーションツールを模索。

▲松川享正さん(株式会社松川レピヤン)

自社で働く従業員に対するケアという視点を基軸に、そのケアの在り方を終始模索。最終的に「team レピヤンズ」として松川レピヤンの4名でプレゼンテーションを制作しました。

▲室野五月さん(株式会社松川レピヤン)

テーマと向き合うなかで自らの「松川レピヤン愛」に改めて気づき、自分の愛する松川レピヤンらしさとはなにかを探求していきました。

▲内山華さん(株式会社松川レピヤン)

自身の性格に対するコンプレックスが、他人との対話の場づくりへの関心に変遷。自身がママとなり社内スナックを開催するなど、スピード感のある実践も。

▲山口貴也さん(株式会社松川レピヤン)

「その人らしさ」に問いの軸を置きながら、個人と会社の関係や社員同士の関係性について、最後までその幸せな在り方を模索していきました。

 

「問い」に向き合う全4回のワークショップを終えて

新たな試みを重ねながら今年度のXSCHOOLをつくってきたディレクター陣と、ずっと伴走してくれたアドバイザーから、受講生に向けて激励のメッセージが送られました。

「不安なことばかりだと思うんですが、これまでのワークショップやリサーチを経て、自分のなかで確かなもの、ここだけは大事だと思っていることがあると思います。それをどういう言葉にすれば外の人に伝えられるのかを考えて、残りの期間を過ごしてほしいと思います」(プログラムディレクター・白井瞭さん)

「第1回のワークショップにみなさんと話しているときの言葉と、今日の言葉の使い方の使い方がまったく違っていました。これまでみなさんが3歩で渡ってきた「医療」までの距離が、「問い」を考えるというプロセスを経たことで100歩くらいの道幅になったんじゃないかと思います。本番に向けて、どうやって自分の問いを一緒に考えてもらえるかということを、少し自分を俯瞰した目線から考えていってほしいです」(プログラムディレクター・内田友紀さん)

「最近、『えほんなぞなぞうた』という本を買ったんですが、「なぞなぞ」には、「伝える」を考えるヒントを与えてくれるんだと思いました。よい問いは、考える余地を与えてくれる。自分が考えたことを「答え」として発表するのではなく、みんなで一緒に考えていける伝え方にチャレンジしてもらえたらと思います。」(プログラムディレクター・多田智美さん)

「どこまで考えるか、どこまでやるかは誰も教えてくれません。なので、自分で決めて、腹をくくって頑張ってください」(プログラムディレクター・原田祐馬さん)

「ここからは、届け先に向かってプロダクトや言葉を飛ばすというフェーズです。伝える相手がいるというのは、怖さを伴うものだと思います。いい反応をくれない人もいるかもしれません。それも合わせてリサーチです。ただ、みなさんが本当に届けたいものが何で、それをどこに届けたいのかは、みなさんにしか決められません。そして、それが本当に届くかどうかはみなさんがどのレベルから言葉を発しているかというところにかかっています。そこに関してはスキルは一切関係なく、届く人には確実に届きます。今度はその人がみなさんの問題意識を受け継いで未来をつくっていってくれますから、そこを信じて、思い切ってみなさんの想いを空に飛ばしてあげてください」(アドバイザー・磯野真穂さん)

▲全体進行の坂田守史さん(プログラムディレクター)

 

XSCHOOLが始まって以来、初めてのオンライン開催となった今年。リアルで集まることの熱量をどれだけ再現できるかという心配もありましたが、さまざまなツールを駆使することで思いを交わし合うことができ、そして何より、常に傍にある「問い」の存在が、私たちをつなぎとめてくれたように思います。

 

約80日間に渡る「問い」を探す旅。

旅路はまだまだ続きますが、プログラムとしてはここで一区切りとなります。

受講生たちの「問い」から生まれる新たな発見を、3月6日のカンファレンスにてぜひご覧ください。

 

text by Kaname Takahashi


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