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XSEMI2019

XSEMI 後篇 ~都市のあり方や生き方、次代につながるデザインの力を考える2日間~

全国各地から約60名が福井に集い、広義のデザインの力をともに考えたXSEMI2日目は福井新聞社・風の森ホールに会場を移しての開催です。

▲前日の交流会のおかげか、参加者同士も緊張することなく和やかな雰囲気の中で2日目がスタートしていきます

医師・紅谷浩之さんと考える、「老いても病んでも自分らしくいられる、これからの支えあいとは?

2日目最初のセッションは、福井県初の在宅医療専門クリニックを開設し、住み慣れた場所で、幸せに自分らしく生きていくことをサポートしている医師の紅谷さん。医療の領域で専門家や地域の人々が垣根をこえて実現しているさまざまなプロジェクトについて語っていただきました。

紅谷 浩之さん/福井市出身。2001年、福井医科大学卒業。福井県立病院、福井医科大学救急総合診療部にて救急・総合医療研修。福井県名田庄診療所、高浜町和田診療所で地域医療の研修・実践。2011年2月オレンジホームケアクリニック開設。福井大学医学部臨床准教授。日本在宅医学会認定専門医。

 

「病気や障がいを持つことが不健康と言われるのを否定したい」という想いを持つ紅谷さん。医療的ケア児は生まれつき大きい障がいを持っていることが多く、社会的にとても弱者。それでも彼らの存在の影響力は大きいと言います。

その事例として挙げられたのは、長野県軽井沢に立ち上げた医療的ケア児の夏の滞在活動拠点「軽井沢キッズケアラボ」での取り組み。そこでは障がいを持つ子どもたちが自らまちに出て活動することで、周囲の人たちが元気になったり地域のルールが変わったりしたそうです。

「私たちから改善をお願いしても受け入れられないことが多いなか、子どもたちのやりたいことを、地域の大人が自然にサポートする流れになるとまちが変わっていく。障がい者に優しいまちづくりを、障がいを持つ子どもたち自らが行ってくれている。こんなに心強い存在はいませんね」と紅谷さんは語ります。

さらに来春には、幼小中一貫教育で3歳から15歳までの子どもが通う「風越学園」が軽井沢に開校予定。学年も年齢もごちゃまぜにしながら、子どもたち主導で学んでいける場を目指すそうです。

「風越学園には病気や障がいを持つ子やそうでない子もいます。孤独こそ本当の不健康と考え、みんなで補い合えるケア医療の文化拠点を目指します」と紅谷さん。開校が今から楽しみです。

医療ケアには、なんとなく「介護=大変」という印象を受けてしまいがち。しかし、近い将来、今の子どもたちの40%が医療介護の仕事に携わることになると言われているからこそ、「介護はクリエイティブで面白い仕事」という発信が重要になってくると紅谷さんは強調していました。

現代美術作家・椿昇さんと考える、「アートって、なんのためにあるのでしょうか?」

次のセッションでは、1日目のラウンドトークでもお話いただいた現代美術作家・椿昇さんに登場していただきました。

椿昇さん/1953年京都市生まれ。京都造形芸術大学美術工芸学科教授。80年代に「関西ニューウェーブ」を代表する作家として活躍し、国内外で注目を浴びる。「横浜トリエンナーレ2001」には全長50メートルの巨大なバッタ《インセクト・ワールド-飛蝗(ひこう)》を出品。ポップな中にも社会的メッセージ色の濃い作品で知られる。

 

2000年以降、全国各地で百花繚乱の様相を呈する芸術祭イベント。しかしながら、それによって一時的に観光客が増えるだけでは意味がない、と椿さんは言います。

実は江戸時代には庶民のすぐそばにあったアート。当時、茶碗の包装紙に浮世絵が使われることもあったそうです。ところが、今ではアートの現場は身近なまちの中から、美術館など敷居が高い場所へ移ってしまいました。

「アートはとても難しいもの」という意識を変え、もっと暮らしに身近な「サスティナブルなアートシステム」をつくる、そんな試みを椿さんは実践しています。

「もはや駅前に彫刻を作る時代じゃない。今の世の中は基本、ネットワーキング。関係性がないからアート作品も死んでいるようにみえる。それでもアーティストに会えば人生変わると、私は思っています」と椿さんは語ります。

▲「『究極のコミュニケーション手段』であるアートが、まちや地域社会で果たす役割は大きい」と椿さん

 

現在進行中のプロジェクトとして紹介していただいたのは、京都府内の2ヘクタールもの土地にアーティストレジデンスを中心にした人々が集う新たな場をつくるというもの。カフェやベーカリー、幼稚園や宿泊施設など、さまざまな構想が生まれています。アートのためではなく、まずは生活全体を豊かにすること。そして、そのためには何が必要かを考えることが大切だと強調します。

「お母さんが子どもを連れて半日くらい、ぶらりとできるような場所をつくりたい。照葉樹の森や有機農場、オーガニックレストラン誘致したり、ウォーキングコースを整備したり。……全然アートが出てこないでしょ」

まずは人が集まることが大事。アートはそのためのオトリくらいの感覚でいい、と椿さんは笑います。

 

また、椿さんがエリアディレクターを務めた「小豆島町未来プロジェクト」も紹介されました。

小豆島ではアートの活用のみならず、地域資源を全部生かして、島全体を体験の場として創出したことで、当初は地元行政から「3人移住して来れば成功」と言われていたところ、結果1年間で130人もの移住者がやってきたそうです。

「地方に住みたい人って結構いるんですよ。だから場所をつくりお店が回るようにして、SNSで“噂”をたてれば地方にも絶対人は来てくれるはずです」と椿さん。

 

セッションではさらに、グローバルビジネスにおけるアートの位置づけや、マーケットとしての魅力、アーティスト教育のプロセスを見直すことなど、多方面からアート業界を取り巻く現状について言及し、アートに親しみを持ってもらえる機会の創出の重要性が語られました。

 

建築家・山﨑健太郎さんと考える、「ばらばらになった関係性に建築ができることって?」

最後のトークセッションに登壇したのは、建築家の山﨑健太郎さん。このセッションでは山﨑さんとともに、地域の人とともにつくり、助け合う気持ちが生まれるような優しい建築のあり方を考えていきました。

山﨑健太郎さん/1976年千葉県生まれ。2008年山崎健太郎デザインワークショップ設立。日本建築学会作品選集新人賞、グッドデザイン賞ベスト100 + 未来づくりデザイン賞、 iF DESIGN AWARD 2017 GOLD AWARDなど数々の賞を受賞。子供、高齢者、障がい者など、特殊な居場所を必要とする人たちのための問題に真摯に向き合い、日々クライアントや地域住民と共に建築が果たせる役割を模索している。

 

「建築はどうやって人の居場所をつくっていくかだと思います。いまの都市にはオフィスや収益を生むために作られた建築ばかり。つまり人の居場所が無いってことだと思うんですよね」

設計する時に大切なのは、「住む人の顔を一人ひとり思い浮かべること」と語る山﨑さん。人によっていろんな見方が出来て、多様な人たちを受け入れる環境とはどういうことなのか?を日々自問しながらさまざまなチャレンジをかたちにしています。

 

話題は、山﨑さんが設計を手がけているホスピスに。現在の病院の原型は“牢屋のようなもの”だと山﨑さんは例えます。

「病院のフロアは真ん中にナースステーションがあり、各病室が監視できるようになっている。そのかたちがずっと今まで残っているんですね。だから末期がん患者さんのほとんどが在宅医療を選ばれる。そりゃあ行きたくないよな、と思いますよね」

患者さんの想い、患者さんのもとを訪れる家族の想いをイメージしながら、一人ひとりが孤独にならないための環境づくりを心掛けている、という山﨑さん。「いつもの病院がそういう場所になれば、患者さんも心地よく過ごせるし、家族も少し立ち止まり気持ちを整えてから患者さんに会いに行けるのではないか」と語ります。

▲真剣な様子で聞き入っている参加者のみなさん

 

戦後、家族という単位で分化した住居空間が日本に広がり、それまであった長屋文化のように助け合う気持ちで成り立っていた暮らしは、いつしか変化していきました。しかし現在、その“助け合い”を建築コンセプトにする建物が再び増えてきているそう。山﨑さんも設計を手がけているなかで、時代の変化を感じるようです。

「人の居場所をつくることを通じて、昔から根づいてきた地域や家族の助け合いを再認識してもらいたい」

山﨑さんの建築に対する思いに共感が広がったセッションでした。

 

椿さんと山﨑さんのラウンドトーク

XSEMI最後のセッションは、椿さんと山﨑さんに再度ご登場いただき、プログラムディレクターの原田祐馬さん、多田智美さんを交えてのラウンドトークです。


多田さん
:今後、建築はどのように変化していくと思いますか?

山﨑さん:近代建築史以降の抽象的な空間づくりから、個人個人にスポットをあてた空間づくりに変化していくと思います。そうした多様性の変化に対応したカスタマイズも求められつづける。ただ建築家としては使い手を選ばず、6070年と長い時間がたっても変わらない建築物をつくっておくことも、私たちの役割なのかなと感じています。

 

原田さん:これからの多様性に対応するためのヒントは?

椿さん:常に自分を開いた状態しておくことです。自分の中のさまざまなチャンネルを開いていくとクリエイティブになっていくし、応答性も高まります。すると何気ないことでも毎日感動できるようになる。いろんな状態が常に量子的に変換されていき、まったく違う自分が無限にいると思ったら、それってすごいハピネスではないでしょうか。

▲多様性を持つことと、作り続けることの重要性を説くお二人

 

続いて、参加者らからの質問コーナーです。たくさんの問いがスマホアプリにどんどん送られてきます。

 

ー1番好きな場所はどこですか?

山﨑さん:インドのガンジス河のほとりですかね。建築を理解するには、原風景や好きな場所を増やすことだと思っています。いろんな所に旅をして、さまざまな感動を体験することで一つひとつ自分の中に取り入れることも大切だと思いますよ。

 

ー重度の思考停止に陥った時にどうしたら抜けられるか?

山﨑さん:建築の仕事は論理的な視点と直感を行ったり来たりしていますが、仕事がうまくいったなという時は、直観によるものが大きいんですよね。だから感性で判断することは思考停止を抜けられるきっかけになるかも。

 

椿さん:常に立場を変える練習をした方がいいですよ。最初から自分に多重性を入れておく。ストレスがかかる前に事前に分裂させておくんです。26人くらい用意しておけば、重度に陥ることはないですよ(笑)。

 

ーこれからの日本での働き方はどうなっていくと思うか?

椿さん:制度の問題なので難しいですが、大きなシステムに対して、自分がどういう立ち位置にいるかを自覚できるようにしていれば、いろんな仕事が自然発生してくるんじゃないかな。

 

質問はまだまだ尽きませんが、ここでタイムアップ。

ざっくばらんな所から深い所まで話がおよび、会場は大盛り上がり。笑いが絶えない中にも、参加者たちはいろんな気づきを得た様子でした。

クロージング:XSEMIを終えて

最後に今回の集大成として、2日間を通して感じたことを紙に書き連ねていきます。

▲自分の考えにイラストも添えて、ペンを進めていく参加者も

 

そして初日に書いた「あなたはなぜここにいるのか?」と今回の記入した紙を並べ、どのような変化があったのか見比べていきます。

みなさん、初日からの気持ちの変化や成長を感じ取れた様子。

「自分で決めることの大切さを学んだ」「何のために仕事をしているのか気づきが得られた」「新しい視点や価値に触れられた」といった感想が聞かれるなど、どの参加者も晴れやかな表情をしているのが印象的でした。

▲自分の中に生まれてくる“問い”に考え続けた2日間

多様な考え方にふれながら、さまざまな視点から自身を見つめ直した2日間のXSEMIが幕を閉じました。

 

text:Syota Ban(fuプロダクション) photo:Yoshiaki Takahashi


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