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XSEMI2019

XSEMI 2019前篇 ~都市のあり方や生き方、次代につながるデザインの力を考える2日間~

「福井に新しい創造的な人の流れをつくりたい」 

そんな想いから2016年にスタートした「未来につなぐ福井魅える化プロジェクト(make.f)」。福井の地元企業と全国から集まった参加者たちが、「未来に問いを投げかける」を合言葉に福井の文化や産業を捉え、プロジェクトの種を生み出しながら、中規模都市・福井に迫る人口減少問題や地方創生に対応するためのヒントを探ってきました。

4期目となる2019年度は、2日間の学びの場・XSEMIと、120日間のプロジェクト創造の場・XSCHOOLの2つのプログラムから、さらに「新たな人の流れと仕事」「地域を超えた関係性」をつくりだしていきます。

今回は9月22、23日に行われた2日間の「XSEMI」の様子をレポートします。福井県内をはじめ、関東や関西など全国から集まった約60人の参加者が、デザインや事業創造の各分野で活躍するスピーカーらとともに、次代につながる広義デザインの力についての対話と思考を深めました。

 ▲初日の会場は日華化学イノベーションセンター。建築家・小堀哲夫氏の設計で、近年国内外の建築賞で注目を集めています

福井のイノベーション拠点に集ったさまざまな分野の参加者たち

XSEMIの参加者は、学生や会社員、建築家、デザイナー、医療関係者、保育士、そしてXSCHOOLパートナー企業の社員など、多様な人たちが集まり、それぞれの参加動機もさまざま。「やりたいことへのヒントがもらえれば」「自分の視野を広げたい」「これからの生き方の模索」など、みなさん今回のXSEMIを通して新しい考えへの糸口を見つけたい様子です。

▲ 参加者のみなさんは、やや緊張した面持ちで開講を待ちます

いよいよXSEMIの開講です! 今回のテーマは「多様な生き物の集合体=都市」。
イントロダクションには、XSCHOOLプログラムディレクターの一人であり、地元福井でディレクター・プランナーとして活躍する坂田守史さんが登壇しました。 

「街の様相が日々変わって行く中で、人々の記憶も新しく塗り変わって行く。未来に向けた人の暮らしと営みを考え、その上で都市の在り方を考えていく事が大事」と語ります。

▲「これからの未来について、都市そのものの在り方を考えていきたい」と話す坂田さん

基本にしておきたい言葉があります、と坂田さんが紹介したのは、1930~1970年代に活躍した建築家ルイス・カーンの言葉。

「“都市とは、朝に少年が出かけていって、夜帰ってくるころには、自分が一生かけて取り組む仕事が見つかっているところ”。誰のための都市なのか? どんな未来に向けて都市を考えていくのか? 未来に問いかけられるプロジェクトを作っていきましょう」と語る坂田さんの言葉に、会場の雰囲気は少しずつ熱を帯びてきました。

続いて、同じくプログラムディレクターで編集者の多田智美さんによる毎年恒例!?のエクササイズ。

“なぜ、あなたは今日ここにいるのか?”

その理由を黙々と真っ白な紙に書き綴っていきます。

▲ 「なぜ?」を深く掘り下げていく参加者たち

手を止めずにどんどん書いていく事で、「本当の理由」を掘り出していきます。

はじめは多くの方のペンがなかなか進まなかったものの、徐々にスラスラと手が動くように。

カリカリカリカリ……とペンの音だけが会場に響きわたります。

書き終えた後は、客観的な視点で読み返し、本当の理由を見つけて〇をつけていきます。考えるプロセスを大事にする訓練に、みなさんの頭が少しずつ柔らかくなっていったようです。

参加者のみなさんが見つけた「本当の理由」は、付箋に貼って共有しました。

 

さあ、いよいよXSEMI本編の開始です。

2日間にわたり行われる5つのセッションでは、さまざまな分野の専門家からの問いかけを会場全体で考えていきます。講義をきっかけにどのような視点や新しい考え方・価値が生まれていくのでしょうか?

 やまのこ保育園home園長・長尾朋子さんと考える「子どもという『未知』とともに暮らしをつくるって?」

最初のセッションで投げかけられる問いは「子どもという『未知』とともに暮らしをつくるって?」。

Spiber株式会社やまのこ保育園home園長の長尾朋子さんと一緒に、子どもも大人も、会社も社会も、働く場も暮らしの場も、「地続き」で成長していく取り組みを考えていきました。

長尾朋子さん/大学院でアートについて学び、卒業後、仙台にある文化財団に就職。その後、東京藝術大学の社会連携事業アートコミュニケーション事業に携わるなか、社会的養護が必要な子どもたちと出会い、保育士資格取得。2018年6月にSpiber株式会社が運営する「やまのこ保育園」に参画し、同年9月より現職。園長として子どもたちとともに自由でユニークな運営を行なっている。

 

Spiberは、⼭形県に拠点を置く新素材を開発するバイオスタートアップで、構造タンパク質素材を産業材料として使いこなすための研究・事業開発を⾏っています。世界で初めて合成クモ⽷繊維の量産化技術の確立に成功したことで有名な同社では、枯渇資源である⽯油に頼らずより多様なタンパク質素材を活用することで、消費型の社会から限られた資源を共有し合う、循環型の社会への転換を⽬指しています。ではなぜSpiberは、保育園の設⽴に⾄ったのでしょうか?

全国にある企業主導型保育園の多くは、外部への委託。その中で事業化を決断したのは、「会社は社会のためにある」という企業理念があったからと言います。30年後の未来を生きる人間像を考えながら、Spiberの理念から導き出された保育をつくろうという思いからでした。

「大人の視点だけでなくて常に複数の視点を持つように。子どもから見た世界はどうなんだろう?と考えるようにしています」と長尾さん。

やまのこ保育園では、循環型の園庭や園児が家事を行う取り組みなど実験的な保育が数多く取り入れられています。また、3~5歳児が行う「サークルタイム」。子ども自ら何をやりたいか、どんな気持ちかをお互いに円座で聴き合って、自分の意思で次の活動を決めていく取り組みが週2回行われているそうです。

こうした実験的な保育を行うためには、「子どもは未知なる存在で、保育に正解などない」と考えることも大事。だからこそ大人も変化し続け、“問い”を立て続けることが重要になります。

▲「 問いを立て続けるには、新しい組み合わせや出会い、積極的なノイズの生成が重要」だと⻑尾さん

見慣れない光景で生まれる違和感にこそ、問いが生まれ新しいアイデアにつながっていく。さらに問うて暮らしをつくることで、さまざまな枠組みの越境につながります。

「働く遊ぶ、会社社会、これらは分断されているようで、実は地続きで広がっているもの」だと語る長尾さん。枠を超えることで、また新たな問いが生まれるきっかけにもなります。常に考えクリエイティビティが発動し続けている状態こそが、総体的な成長には必要なのかもしれません。

 

  建築家・秋吉浩気さんと考える「ファブとつくる未来の地域とは?」 

次のセッションでは、建築家でVUILD株式会社代表取締役・秋吉浩気さんと「まちのなかで資源がめぐる。ファブとつくる未来の地域とは?」をテーマに考えていきます。

秋吉浩気さん/大阪府出身。芝浦工業大学工学部建築学科にて建築設計を専攻、慶應義塾大学政策・メディア研究科田中浩也研究室にてデジタル・ファブリケーションを学ぶ。「住む事と建てる事」が極端に分離している状況を革新すべく、日本伝統木構法とデジタル製造技術とを融合したデザイン手法の構築と、その社会実装までを担っている。

 

加工データを工作機械に送信することで、特別な技術を持たなくても精密なものづくりを可能にする「デジタルファブリケ―ション」。秋吉さんは「スマートフォンを持つような感覚で、自分たちの住環境を自分たちで作っていこう」を会社のミッションに掲げ、デジタルファブリケ―ション機の「SHOPBOT(ショップボット)」を全国の林産地と呼ばれる自治体・地域に導入するなど、ものづくりの“民主化”を進めています。

このショップボットは現在すでに40台以上導入しているそうですが、なぜ過疎化が進む中山間地域なのでしょうか?それは建築産業が中央集約化され大型化していく中で、地場の会社が無くなり地域の生産能力が衰退の一途を辿っているからだと言います。デジタル化した木材加工技術が入ることにより、生産者自身が地域にある材料からデザインされたプロダクトをつくり、直接消費者に提供できるのではないかと考えました。

 

▲「5万円の家具を単体で買うのか、5万円の家具をつくる体験を買うのかで、全然価値が違うんですよね」と秋吉さん

 

量産体制の構築や流通コストカットなどの目的以外にも、“まちとの接点”や“人とのつながり”を結びつけるものとして、「ショップボット」が設置されているケースもあるそうです。 

最近の事例として富山県の五箇山で行われた「まれびとの家」プロジェクトが紹介されました。ここは都市部とは隔離された山間部で、地域内で建設プロセスや経済が完結している地域。そのような環境でスタートした地域森林資源とデジタルファブリケーションを使った建築事業は、地域を超えた建設会社の協力を生み、大工さんと素人が一緒に組み立て作業を行うなど、従来の地域社会のプロセスを覆す歴史的事件となりました。

ものをつくる過程の中で、今までなし得なかった価値を生み出すファブリケーション。資源やアイデアがひとつの加工機を中心に、地域内で循環し人と人との関係までも編み直していく。

秋吉さんは未来に向けて、「こういう機械が導入されて初めて、自分たちが地域でどんな暮らしをしたいのか? を問い始めるきっかけになるのかもしれません。こういった流れを作っていく事が大事ですね」と語りました。

 

トークセッション終了後は、参加者それぞれがどう感じたのかをまず紙に書いた上で、各テーブル内で自分の問いを披露したり、ほかの参加者の考えに耳を傾けたりと、それぞれの思いを共有しました。

▲肩書きや専門性の枠を越えたディスカッション

 

▲セッションを終えて、張り出された紙には、多様な考えや感想がびっしり

▲休憩時間には参加者全員で記念撮影も

長尾さん、秋吉さん、椿さんのラウンドトーク

1日目最後のプログラムは、長尾さんと秋吉さん、そしてディレクター陣によるラウンドトークです。

このセッションには、2日目に登壇予定の現代美術作家・椿昇さんも参加し、10年後、20年後に向けたサスティナブルなマインドや取り組みについて語ってもらいました。

長尾さん

「小さなことが全体に影響を与えるので、全体をシステムとして見られるかどうかで視野が変わっていく。そうすると変化をシステムから求められていたり、システムを変えるために自分が変化したりなど、変化の必要性を感じられるようになると思います。自分の成長や変化が場の変化に影響を与えていると実感が持てると思うので、まずは何事も一度始めてみると楽しいと思います」

 

秋吉さん

「建築ってお祭りで。祝祭性を帯びたものなので、その祭りの中では無礼講だし職も関係ないし、学生でも参加できる。そうなるとそこには普段と違う場が生まれるんですよね。つくるという行為においては、ドロドロしたそういう場をつくりたいなと思っていて、そこに巻き込むことがまず一つ目としては大事かなと。ものづくりは挑戦してみることと、最初のアウトプットが大事だと思います」

 

▲教職時代のエピソードを軽快に語る椿さん。

 

椿さん

「自分には何ができるか考えることが大切ですね。自分が持っているものって意外とあるんですよ。みなさん気づいていないだけで。そういうのをこの場に来られた方がシェアして、地域に戻った時に、行動に移していけば何かが変わるのではないでしょうか。この積み重ねが大きな変化につながっていくと思いますよ」

 

ラウンドトーク終了後には、参加者の頭に浮かんだ疑問や質問をスマホアプリで集め、会場内の「いいね」が多く集まったものから登壇者が答えていきました。

 

▲たくさんの質問が次々と投稿されていました。

 

ーー仕組みを作るにはどんな成長プロセスが必要か?

 

長尾:環境設定に力を注いでいくのと、対話の場のデザインが必要だと思いますね。貴重な集まる機会だからこそ、現実と向き合いながらもその質を上げていく工夫が大事。

 

椿:SNSなどを上手くつかってもいいかもしれないね。

 

秋吉:お互いのノウハウをシェアするのが重要で、プロジェクトを円滑に進めていく中で、出し合うことを臆さない信頼関係の構築も大きいかなと思います。

 

ーーまったく価値観が違う相手との対話はどうすればいいのか?

 

椿:にっこり微笑むことですね~。あとは、あの手この手を使うことかな。使える手段はすべて使って、遮断しないこと。まったく価値観が違う人こそ、何年後かに自分を助けてくれるから。

  

ーー自分の中に多様性を持つために普段からしていることは?

 

椿:僕の場合は、知的好奇心が止まらない。歴史に残っている本を漁ったりしていますね。

 

秋吉:僕も50年前とか100年前とかの本を読んだりするんですけど、建築史を遡れば遡るほどより本質的なぶれない部分に出会えて、勉強になりますよ。

 

長尾:コミュニケーションを遮断しないで、自分を“開いておく”ことは大事だと思います。それによって多様性が入ってくるのかなと。

  

そのほかにも

「小さなファクトまではつくれますが、それを大きくしていくには何が大事なのか?」

 「デザインのハードルが一般の人にとって下がっていく中で、デザイナーの役割は今後どうなるか?」

 「会社に所属していると、しばしば思考停止した命令が下りてくることも。上司に思考してもらうには、どういったアクションが大事か?」

 などなど。興味深い質問が続きました。

▲ラウンドトークを進行したプログラムディレクターの原田祐馬さんと多田さん

みなさんからの質問は尽きませんが、ここでXSEMI・1日目が終了です。
夜はスピーカーも交えた交流会が開催され、全国各地から集まった参加者らで親睦を深めました。

後編へ続きます。

 

text:Syota Ban(fuプロダクション) photo:Yoshiaki Takahashi


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