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XSCHOOL2019

ローカルとグローバルがつながる未来に向けて【XSCHOOL福井プレゼンテーション後編】

「XSCHOOLプレゼンテーション福井」は後半へ。ゲストレビュアーの松島倫明さん、山崎亮さんと、プログラムディレクターの原田祐馬さん、坂田守史さんが登壇し、6チームのプレゼンテーションを振り返ります。

 

プレゼンテーションの前半はこちら→(レポート前半

 

ゲストレビュアーのお二人は発表を聞いてどのように感じたのでしょうか。

 

松島
ここまでたどり着くなかで生まれた各チームのドラマに興味を持ちました。120日間考えたことを10分で聞いてレビューするのは正直無理がありますが(笑)。1チームに対して1時間くらいじっくりお話しながら、プロジェクトのスケールアップまで一緒に考えたかったですね。

 

山崎
6チームのプロジェクトは、仲間が増えるプロセスでかたちが変わっていくものばかり。なので、今日発表したことがそのまま実現すれば嬉しいけど、ちょっとがっかりするかもしれません(笑)。これからどんな風にかたちが変わっていくか、どのチームもすごく可能性を感じましたね。

▲『WIRED』日本版編集長の松島倫明さん(左)とstudio-L代表の山崎亮さん(右)

安易なアウトプットはしない

発表では「本当にそのアウトプットでよかったのか」とレビュアーから質問されたチームがいくつかありました。お二人の意図はどのようなところにあったのでしょうか。

 

原田
今回の発表のなかで、「アウトプットのあり方」を問うシーンがあったかと思います。お二人は普段、どのようにプロトタイピングからアウトプットまでを考えていらっしゃるのでしょうか?

▲プログラムディレクターの原田さん

 

松島
プロトタイピングは良いことですが、それ以上に仮説を立てることが大切だと思っています。仮説の強度が高ければ高いほど、その後の検証も確かなものになる。つくってみて違うなと思ったら、次に進めばいいと思っています。

 

山崎
同じチーム内で、プロトタイピングするチームと検証するチームをつくって議論するやり方も効率的かもしれないですね。全員がプロトタイピングに関わると、止め時が難しいもの。「こんなのいらないよね」と、サラッと言ってくれる人が近くにいることは、実は大切だと思っています。

 

松島
異文化のすり合わせや異質なもの同士のコミュニケーションを解決する方法は、人間と人間がぶつかることだと思うんです。だから「Talk Stay」のアプリはアウトプットとしては綺麗だけど、少し逃げに走っているなと感じてしまいました。テクノロジーは便利ですが、その使いどころが難しいですよね。

 

山崎
「笏谷石バンク」もその傾向は少し感じました。でもしっかりリサーチしているし、石の会社にまで行って登録を促す、そのあたりの泥臭さもあったので評価しています。あとはアプリやWebを使うきっかけをどう構築するのか、この点も考えることがありそうです。

 

坂田
コンテンツをどう走らせていくかも気になっています。どのチームもなぜかFacebookページとInstagramページをつくっていたんですが、その後の運用の方が大変になのになぁと思っていました(笑)。 

▲プログラムディレクターの坂田さん

 

松島
プロジェクトは中身と外側を両方つくっていきますが、中身を置き去りにすると本末転倒ですよね。かっこいいシェアオフィスをつくっても、そこで何をすればいいのかわからないというところが、東京にもごまんとありますから。

地域の人がわかる言葉を使う、その真意

今回の発表では、地域のなかに入り込んで活動するプロジェクトがありました。レビューでは、「地域の方が普段から使っている言葉を使うこと」の大切さを語った山崎さん。これまでさまざまな地域に寄り添ってきた山崎さんの経験が詰まったアドバイスでした。


原田

山崎さんが「ノカテ」チームの講評で仰っていた「余白」と「余分」の話は印象的でした。「余白」と「余分」って自分たちで発見した言葉だから思い入れもあるし使いたくなる。でも現場の人にとってはそんなに大事な言葉じゃない。山崎さん自身もこういう経験をされたことがあるんですか?

 

山崎
ありましたよ。私が建築を学んでいる時は、「建物のかたちで印象づけるのではなく、中身をどんなプログラムにするかを考え、実現させる」という考え方に変わり始めた時期でした。しかし、プログラムがうまく組めすぎると、その枠から離れたくなくなることに気づいたんです。例えば、アプリを先に思いつくと、プロジェクトの中身がアプリを使う前提のものになってしまう。そうすると、使い手が本当に使い易いかという点が置き去りになってしまうんですね。

「余白」や「余分」のようなめちゃくちゃいい言葉を思いついた時は、そのまま言葉が一人歩きしてもちゃんと伝わるのか確かめることが大切です。「これはいい意味で使ってる言葉なんです」と毎回誰かがつけ足さないといけないような言葉は、機動力が落ちてしまう。だからこそ、地域の方が使う言葉で考え、地域の方々が普段の暮らしのなかで動ける状態にしなければならないと思っています。

▲「プロジェクトが完成した時に、『自分たちがやった』と地域の人たちに思ってもらうことが大切」と山崎さん

 

テクノロジーと地域のこれから

雑誌『WIRED』日本版編集長として、テクノロジーの最先端を追い続けている松島さん。レビューのなかでも、地方都市が世界とつながる新たな未来の姿を垣間見ることができました。松島さんのお話にワクワクした方も多かったのではないでしょうか。

 

原田
『WIRED』では、これからどうなっていくかわからないようなプロジェクトも紹介していますよね。以前、「大いなる実験」と仰っていたのが印象的で、すごいいいなと思っています。

 

松島
ありがとうございます。『WIRED』は実験的なメディアなので、失敗するなら前向きに倒れようというスピリットがあります。未来のことなんて誰もわからない、だからこそポジティブな示唆を切り取りたいと思っています。

 

坂田
「土着」にはローカルでアナログなニュアンスがありますが、テクノロジーのおかげで、あらゆる場所に「土着」を生み出すことができる時代になってきました。スピードの速い情報社会においても、未来にちゃんと根づくものをつくることができるのか。それともまったく違うアプローチがあるのか。それを考えるのも今回のXSCHOOLだったのかなと思っています。 

 

松島
「未来の土着」って10年くらい考えていられそうなテーマですよね。(笑)。「Tonkan terrace」はすごくいい例で、デジタルテクノロジーがあるなかで、グローバルとローカルという両極なモノをどうやってつなぐかという点も面白かった。その可能性を考えることが、「未来の土着」になるのかなと思いました。

今世の中はあらゆるものがセンシングされていて、3Dスキャンすれば、デジタル上で誰もが同じものを持てるようになり、世界中どこでもアクセスすれば参加できるようになる時代がすぐそこまで来ています。

 

原田
一方で、「Tonkan terrace」では、敷地内の低木を切ってみては、というレビューがとても興味深かったです。僕は何度もあの場所の写真を見ていたのですが、木を切るという視点は気づかなかった。どんなにテクノロジーが進み、デジタル上で世界中から参加できるような時代になっても、「木を切れば世界の見え方が体感的に変わる」といった実験は、結局はその場所にいるリアルな人たちがやっていかなければならないのだと感じました。

 

松島
世界中にいる人たちとローカルで暮らす人をどのようにつなぎ、新しい都市をつくるのか。それが次のコミュニティデザインに必要な視点ではないかと思っています。デジタル上での体験がどのようにリアルな体験として結びつくかも考えていくと面白そうですね。

▲次号の『WIRED』や人工生命とコミュニティづくりの共通点、未来の祭りなど、さまざまな話題が繰り広げられました

 

XSCHOOLに感じたこれからの可能性

最後に、ゲストレビュアーのお二人からXSCHOOLに感じた可能性を語っていただきました


山崎

「フレームがあるとそこにあてはめがち」という話は、自分がXSCHOOLのようなプログラムをつくるときにも必要だなと思いながら話していました。思いついたフレームを一旦消して議論することで、地に足がついたプロジェクトになると思います。プロジェクトの成果をどんなアウトプットにするかも最後に決める。XSCHOOLはそういう進め方が向いているなと感じました。

 

松島
XSCHOOLをうまく言語化することは難しいのですが、企業とデザイン、その混ざり方が面白いと思っています。OBの人たちがメンターとして参加するのも素晴らしいですよね。世の中のプロジェクトにはじまりも卒業もなく、すべてがプロセスだと思っています。120日で生み出したことを、これから先も考え続けながら、再び問を立て直してほしいなと感じました。

 

坂田
XSCHOOLはこの4年で、ディレクターやメンバー、XSCHOOLに関心をもってくださる方など、垣根のないコミュニティが育ってきました。こういう土壌ができたのはありがたい。土を耕すのはやはり人なのだなと感じています。お二人もXSCHOOLのコミュニティの一員として、これからも見守っていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

 

ラウンドトークの最後には、今期のXSCHOOLに伴走してくださったアドバイザーやパートナー企業から熱いメッセージをいただきました。

川崎和也さん(Synflux主宰/スペキュラティブファッションデザイナー):
120日間おつかれさまでした。当初はワークショップに2回ほど参加させていただく予定が、結局ほぼ毎回福井に通っていました(笑)。そうさせた理由は、メンバーの力になりたいという想いもあるし、僕自身も大きな学びになったからです。福井発の6つのプロジェクトが世界に羽ばたくのを期待しつつ、これからもXSCHOOLのメンバーとして協力していきたいです!

 

佐々木千穂さん(株式会社インフィールドデザイン代表/エスノグラファー):
最初、XSCHOOLはよくあるイノベーションワークショップかなと思っていたのですが、まったく違いましたね。参加される人の食いつきが違うし、ワークショップを通して奇跡のようなことが起こっていました。今日発表されたプロジェクトが土着していくには、また変わっていくのではないかと思っています。チームを見守るアドバイザーとしてXSCHOOLに立ち会わせていただき、本当に感謝しています。

 

増田喜一郎さん(株式会社増田喜 代表取締役社長):
これまで第三者に当社のことを考えてもらうことがなかったのですが、XSCHOOLでは当社に寄り添ったプロジェクトをつくっていただき、本当に感動しました。これからも地域に愛されるようなコミュニティをつくっていただきたい。当社から参加した3名の社員も、はじめは心配しながら見守っていましたが、最後まで笑顔でやりきってくれたことがすごく嬉しかったです。

 

島田昌和さん(日華化学株式会社 未来創造室):
昨年度は会場パートナーとして、今年度はパートナー企業として参画させていただきました。これまでは少し遠巻きにXSCHOOLのことを見ていましたが、今回は実際にメンバーとして私も参加。当社から参加した20代社員の成長も感じることができました。120日間通して感じたことは「アメージング」の一言につきます! みなさんにもぜひこのアメージングを体験していただきたいですね。

 

米澤稔夫さん(株式会社米澤物産 代表取締役):
当社からは3名参加させていただきました。毎日彼らが試行錯誤している姿を見て心配したこともありましたが、彼らの変化に驚いています。さまざまな人と関わりながら新しいPJを立ち上げていく密度の高い時間は、会社のなかだけで経験できることではないと思っています。これからもやりきってほしいですね。

 

約120日間、「未来の土着」というテーマに向き合ってきたメンバーたち。自分ごとから地域、世界、地球規模にまで視野を広げ、過去・現在・未来に思いを馳せながら生み出したプロジェクトは、ここからがスタートです。各チームのこれからにどうぞご期待ください!

▲約120日間、おつかれさまでした!

 

text:石原藍 photo:片岡杏子


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