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XSCHOOL2018後編 〜広義のデザインの力を、ともに考える2日間〜

総勢約90名が福井に集い、広義のデザインの力を「ともに学ぶ」XSCHOOL。2日目は福井市内で今話題の場所に会場を移し、この日も濃密な時間を過ごしました。

バザール空間! NICCAイノベーションセンター

2日目の会場となったのは、福井市文京区にある日華化学株式会社の「NICCA イノベーションセンター(以下、NIC)」。

これまでの研究所という概念を脱ぎ捨て、社内外からさまざまな人が集まり、活発な議論が生まれ、イノベーションがわきおこる研究開発拠点として、2017年11月に誕生しました。

まずはNIC立ち上げの要を担われた、同社の吉田史郎 常務取締役・シニアアドバイザーにご挨拶をいただきました。

「NICは社員とともにコンセプトを考え、世界中の研究者やクリエイターが集い、ワイワイ議論しながら常にイノベーションが生まれる場を目指して誕生しました。刺激的なアイデアや技術をグローバルに交換できる、“バザール”のような空間になっています」

イノベーションを誘う空間とは、一体どんなものでしょうか? 施設の設計にはさまざまな工夫が隠されている様子。そこで、2日目の最初のプログラムはNICを日華化学のみなさんと一緒にめぐり、その秘密を探っていきました。

 

NICと考える「イノベーション拠点から構想する、未来を作る場所」

受講生たちは日華化学のスタッフに案内していただきながら、各グループに分かれて施設内を見学していきます。

NICの建物は、広さ約7400㎡の4階建。どのフロアにいても自然光が差し込み、施設内は雨水を利用した冷暖房システムが完備。年中一定の温度を保つことができます。また、吹き抜けやオープンなスペースが広がるので、どの階にいても顔が見え、存在を感じることができるそうです。

4〜5人で集まることができるスペースが随所にあるので、自然発生的にミーティングが始まることも珍しくないのだとか。

 

壁全体がホワイトボードになっていたり、お客様にもすぐに見てもらえるよう実験室がガラス張りになっていたり、時にはストイックに仕事にとりくめるような篭り部屋があったり……。風通しの良い自由な空間が広がっています。

NICの建築を手がけた建築家の小堀哲夫さんも東京から駆けつけてくださいました。小堀さんは2017年、JIA日本建築大賞と日本建築学会賞という国内2大建築大賞を、史上初めて同年中にダブル受賞したことでも知られる気鋭の建築家です。

▲小堀哲夫さん

 

「福井は貯蓄率や学力、幸福度も全国でNO.1ですが、イノベーションがなかなか生まれない土地だと言われていました。そこで、建築する前にどんな働き方ができればいいのかを考えるワークショップを7回にわたって行い、社員のみなさんと一緒にNICのコンセプトをつくりあげてきました」

とはいえ、日華化学のみなさんは、そのようなプロセスに戸惑いはなかったのでしょうか? 小堀さんはこのように答えます。


「ワークショップを行うにあたり、同志社女子大学の上田信行教授にアドバイスをいただいていたのですが、上田先生の『人は教育で変わることはできない。環境により変わることができる』という言葉に、私はとても大きな影響を受けました。上田先生が所属されていたマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボに視察へ行きましたが、プレゼンテーションの雰囲気や研究者たちが子どものように楽しんでいる様子など、MITの環境そのものがとても勉強になりました。そこで感じたことを日華化学のワークショップにも取り入れていったんです」

最初はどんなことが行われるのか戸惑っていた社員のみなさんも、会社の本気度の高さや自由に発言できるワークショップの雰囲気に、少しずつ積極的になっていったそう。最大公約数の意見を求めず、多くの人たちを巻き込んでいく、そんなワークショップの積み重ねが、このような素晴らしい空間の誕生につながったことがわかりました。

ミュージアムエデュケーター・会田大也さんと考える、「いいワークショップはどうやってつくるの?」

次のセッションは、山口情報芸術センター(YCAM)をはじめ、博物館での教育普及活動や人材育成トレーニングなど、オリジナルのワークショップを数多く開発しているミュージアムエデュケーターの会田大也さんに、ワークショップのつくり方について学びます。

▲会田大也さん


今やさまざまな場所で開催されているワークショップ。しかし、参加者やそのときの状況により、想定外の展開が起きることもあります。しかし、そんな状況をあえて積極的につくることで、ワークショップにより深みが増すのも事実です。どうすれば相互的な学びの場をつくることができるのでしょうか?


最初に行ったのは
言葉を使って絵を鑑賞する「ブラインド鑑賞」というワークショップ。美術館で1つの絵画を見る時間は平均約10秒と言われており、それは100年前からほぼ変化がないそうです。


たとえば
世界で一番有名な絵画といわれているレオナルド・ダヴィンチ作の「モナリザ」。しかし、どんな眉毛をしているか、指輪はしているか、右手と左手はどちらが上になっているか、頭には何か被っているか、と聞かれると、答えられない人がほとんどではないでしょうか。

▲モナリザに眉毛はなかったですね……。


人は知っていると思った瞬間にその対象を見なくなる性質があるそう。次は物事を意識的に見て伝えるためのワークを行いました。

二人一組になり、一人は目をつぶって作品に背を向け、もう一人が作品を見て、その詳細の情報をペアの人に伝えます。目をつぶった人は、どんな絵か頭の中でイメージしていきます。

「真ん中に木があって、女の人が畑にいて……」絵に描かれている情報をうまく説明するのは意外と難しい……。

最後はみんなで答え合わせ。思い描いたイメージと合っていたでしょうか?

ワークを通して、人って意外と作品を観ていないんだなぁと気づいた人も多かったのではないでしょうか。言葉で捉え、分解しながら観る方法があることや、全体から捉えるか、詳細から捉えるか、人によって伝え方にもさまざまな方法があることなどを学びました。


そして、ここからが本番。

先ほどのワークは、実はきっちりしたタイムライン設計に沿った「スクリプト」と呼ばれる台本に沿ってリードされていました。実際にそのスクリプトを見せていただくと……なんと手順の説明からセリフ一言一句までビッシリ!

「ワークショップでどんなことを話すのか、どんな動きをしてもらうのか、セリフから時間のこと、その場で想定される反応まで細かく書いていきます。ラジオ番組の台本のようなものです」と会田さん。

ワークショップは今や広く浸透していますが、その良し悪しはなかなか評価しにくいもの。スクリプトを書くことは、時間のコントロールがしやすいだけではなく、アーカイブへの意識も高まるなど、ワークショップの設計においてとても重要です。

 

参加者にどんな体験を持ち帰ってほしいのか、重要なのはコンセプトと事前の設計・準備だと語る会田さん。ワークショップに関しては百戦錬磨の会田さんですが、準備をしてこそ、アドリブも生きてくるのだそう。仕事でのプレゼンテーションも、これくらい準備して臨もう!と意識が変わった受講者もたくさんいたようです。

これまでにXSCHOOLから生まれたプロジェクトのニュースも!

さーてお昼ご飯……の前に、これまでのXSCHOOL受講生から現在進行中のプロジェクトを紹介していただきました。

 

1期の受講生・室谷かおりさんたちが商品化したのは、お味噌を絵巻物の形状をしたパッケージでラッピングした「絵巻味噌」。昨年度のパートナー企業である「米五」さんの味噌と、味噌が登場する福井の民話「化けもの大蛇と四郎太夫」の両方を味わうことで、遠い昔の福井の風土を感じられる商品となっています。

▲なんと、2018年9月22日に発売たばかり!


また、同じく1期の受講生、黒川照太さんたちが考案したのは、「FOODIST INFORMATION」という、食べ物に含まれる食材や栄養成分などの情報を共有するプラットフォーム。第一弾として、食品成分が英訳表示されているインバウンド向け弁当がJR福井駅と金沢駅で販売されています。今後も食品の栄養成分の開示を進めることで、食のバリアフリーを実現していきます。

▲1期のパートナー企業である株式会社番匠本店のお弁当「越前朝倉物語」は食材の成分がすべて英訳されています。

お題持ち込みプレゼンテーション&ディスカッション「このプロジェクト、みんなで考えたい!」

午後最初のセッションは、4名の受講生が登場し、それぞれが温めているプロジェクトについてプレゼンテーション。その内容について会場みんなでディスカッションしていきます。

 

最初に登場したのは、鯖江市のめがねメーカー「谷口眼鏡」に勤める永山恭平さん。

めがねは暮らしに身近なものなのに、あまり詳しく知らない人が多いことにもどかしさを感じているそう。オーダーメイドの靴のように、めがねと長くつきあっていく文化をつくるにはどうすればいいか、めがねの魅力をみなさんと考えたい! と永山さんは言います。

▲永山さんの会社では、めがねづくりのワークショップなども開催しているそう

「背景にあるコミュニケーションの設計まで考えられるといいかも!」「わざわざ来てもらえるような店舗づくりを考えてみてはどうか」、「レンズを通した風景を切り取ってみては」、などめがねユーザーを中心にさまざまなアイデアが飛び出しました。



次に登壇したのは、フォントデザイナーの近藤小百合さん。近藤さんは最近「信頼」について考えることが多いそうです。

とある有名企業のロゴを例にとり、フォントからくる「信頼感」の変化を見てみました。書体や色が変わった途端、一気にその企業に抱いていた印象が揺さぶられていきます。しかし、少々ロゴが変化しても、さほど違和感がない企業も。うーん、この差って何なのでしょうか。不思議です。


ロゴを通じて、受け手が無条件に信頼してしまう表現はどんなものなのか。また、またどんなことで信頼がなくなってしまうのかを問いかけました。


「ブランドということ自体が信頼の証だ」「
つくり手の想いが見えないものは信頼できない」「ロゴ自体が企業の姿勢を伝え、ときにはその姿勢を正すものだ」など、こちらもいろんな角度からの意見が発表されました。




3人目に登場したのは、Webメディア「しゃかいか!」で編集長を務める加藤洋さんです。


加藤さんは2年前、福井市の日本海側、越廼(こしの)地区で行われたトライアルステイに参加。地元の方と親睦を深め、越廼地区での滞在を楽しんだ経験から、この地区に新しくできるサテライトオフィスの使い方をみんなで考えたいと、アイデアを求めています。


「オフィスのことをあえて考えないことが大切」「学校につくって地元の子どもたちが仕事にふれられる場にしては」「立地を活かして夕日を見に行きたくなる場所に」など、実現するととても楽しそうなアイデアばかり! 越廼地区に遊びに行きたくなった方も多いのではないでしょうか。


最後に発表してくださったのは、住宅系のWebメディアに携わっている長谷川恭子さん。

長谷川さんは20代前半に「I型糖尿病」を発症したそう

食べることもおしゃれも好き、これからやりたいこともいっぱいある。そんな年頃の女性にとって、人生をも左右する大きな出来事でしたが、治療を通して当事者にしかわからないさまざまな経験をしたそうです。


インスタグラムで発信をしたり、「治療に向き合う気持ちを整理できるツール」や「治療用器具のfunction(機能)とfashionを掛け合わせたもの」といったアイデアを考えたりなど、病気とつきあう生き方を考え、実践している長谷川さん。このプレゼンを通して「治療以外のところで、うまく周囲とうまくつきあっていくためのアイデア」を会場のみなさんに
問いかけました。

病気についての知識は、身近に病気の人がいたり、自分が当事者にならないと調べないもの。知識がないと、ちょっとした日常のことでも気を遣ってしまいがちです。会場からは「食べられるご飯や接し方などの共有」といった、リアルな情報を知りたいという声が多く聞かれました。

このセッションは、プロジェクトをつくる人たちを、みんなで応援したい! と準備されたもの。会場にはプレゼンター1人ひとりに向けたコメントシートが配布され、4名のプレゼンターは分厚いフィードバックの束を持ち帰りました

XSTUDIOリーダー・萩原俊矢さん、杉本雅明さん、吉行良平さんと考える、「アイデアはどこからやってくる?」

いよいよ最後の大型セッションです。

2018年9月末からスタートするXSTUDIOでは、3つのスタジオがパートナー企業とともに「ともにつくる」を実践していきます。ここからは、3つのスタジオを率いるリーダーが登壇するラウンドテーブル形式で、アイデアを生み出す力や可能性について話していただきました。

STUDIO Aのリーダーはエレファンテック株式会社・取締役副社長の杉本雅明さん。同社は、導電インクによる印刷技術を使い、通常は鋳型を用いる電子基板の製造プロセスをひっくり返して世界の産業界から注目される、東京大学発のスタートアップです。

▲新しい価値を見つめ、常にコラボレーションの可能性を探っている杉本さん。


STUDIO Bのリーダーはウェブデザイナーの萩原俊矢さん。企業のグローバルサイトやアーカイブなど、ユーザーのアクションを分析したさまざまなWebサイトのデザインを手がけつつ、インターネットを題材にしたアーティスト活動も行っています。

▲XSCHOOL1・2期では講師としてプログラムに伴走していただきました


STUDIO Cのリーダーはデザイナーの吉行良平さん。鋭い観察眼を持って、手を動かしながら仮説を検証し、実験を重ねる独特の製作スタイルで、国内外の家具を中心にさまざまなプロダクトの制作や商品開発に携わっています。

▲吉行さんがオランダ滞在時代に体験したデザインプロセスの事例は、会場でも爆笑の嵐でした。

トークを聞きながら、会場のみなさんが3人のリーダーたちに質問したいことをカードに書き、それをもとに、3人のリーダーが自由にトークを展開していきます。

――ひらめきがほしいときは?

萩原:ぼくは音楽を聴きながら歩きますね。

吉行:ぼくは居酒屋に行くかな〜。

杉本:アイデアはよくトイレと自分の席の間で生まれるっていいますよね。

 

――アイデアは誰のものか?

萩原: 自分の思考はいろんな人の影響でできているから、まっさらのオリジナルのアイデアってないんじゃないかなと思うんです。ひらめいた瞬間に完成ってこともなく、育てているうちに自分のものになっていくと思います。

杉本:いいアイデアこそコピーされるもの。だからこそ広げるための仕組みを考えることが大切ですよね。

 

――突き抜けたアイデアはどうやって出るのか?

吉行:例えば、オランダのアムステルダムの交差点はよく事故が起きるので、いっそ信号をなくしてしまおうというプロジェクトが立ち上がったんです。日本だと危ないからといって絶対できないと思うのですが、アムステルダムでは実際にやってしまいました。すると、歩行者や運転手同士でアイコンタクトが増え、事故は激減したそうです。アイデアって、解決と可能性に対して笑顔で臨めるかが大切だと思うんです。一見、現実的じゃないアイデアも思いっきり楽しんだらいいと思うんですよね。

萩原:XSTUDIOも仕事じゃなくて実験の場だから、どんどん突き抜けたアイデアが出てくるといいですよね。

投稿されたハガキを読むラジオのようなノリで展開された3人のリーダーたちのトークに、会場は大盛り上がり。終始笑いが絶えないラウンドテーブルでした。

クロージングセッション:XSCHOOLを終えて

2日間にわたって行われたXSCHOOL。いよいよ最後のセッションです。プログラムディレクターの3人は何を感じたのでしょうか?


「今回のXSCHOOLは、何歳になってもともに学ぶ場、本質的な議論が全力投球でできる場をつくりたいという想いから構成しました。所属も肩書きも違う人が集った2日間、いろんな立場から物事を捉える経験ができたのではないでしょうか」という原田さん。


「本当は3日間やりたいくらいでしたね。プログラムを通してさまざまな問いかけが生まれ、受講生のみなさんがそれぞれいろんな人の言葉を心に刻んでいる様子が印象的でした」と多田さん


「いろんな角度からみんながインプットすることで、予想もつかない反応がでてくるなと思いました。2日間のプログラムで記憶に残っている言葉や感覚を、これからも大切にしてもらいたいです」と内田さん。


会場からも「デザインの授業では聞けないようなことを学べた」「これからの自分の課題を見つけられた」「学びが多すぎて頭がパンクしそう(笑)」とさまざまな声をいただき、2日間の濃密なXSCHOOLは幕を閉じました。

 

9月後半からは「ともにつくる」XSTUDIOもスタートし、すでに3つのスタジオがプロジェクトを進めています。次回、10/27(土)の夜にオープントークイベントを開催予定。こちらもぜひご注目ください!


text:石原藍 photo:片岡杏子


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